五十嵐太郎『日本の建築家はなぜ世界で愛されるのか』を読んで

 五十嵐太郎『日本の建築家はなぜ世界で愛されるのか』(PHP新書)を読む。タイトルのやや胡散臭いのに反してとても面白かった。
 まず「アメリカで学んだモダニズム」として、槙文彦と谷口吉生を紹介し、「メタボリズムを世界に売り出した」黒川紀章、「建築マフィア」の磯崎新、「世界を駆ける野武士」の安藤忠雄伊東豊雄山本理顕高松伸、「グローバリズムの波に乗ったスターアーキテクト」として、SANAA坂茂隈研吾青木淳、「展覧会と教育から世界に進出する」アトリエ・ワン、阿部仁史、「海外に活路を見出すロストジェネレーション」の藤本壮介石上純也、迫慶一郎、田根剛、のように括って要領よく紹介している。
 同じカテゴリーに属するとして2人から数人を取り上げ、その比較を通じて手際よく特徴を教えてくれる。ほとんど何の知識もなかった私が曲がりなりにも現代の建築家について粗いとは言え、おぼろながらも見取り図が見えたという印象をもった。
 五十嵐が序章で述べている。

 この企画を進めるなかで、改めて気づいたが、部分的には同じテーマで論じていても、全体を概観する類書は意外に存在しない。したがって、本書を読むことで、近代以降、どのように日本の建築が海外に進出したかをまとめて知ることができるだろう。

 新書版なので仕方がないが、写真図版がもっと多ければと思ったことも事実だ。しかし十分に堪能した。表紙に著者として「五十嵐太郎 東北大学都市・建築理論研究室」とある。この「東北大学〜」は著者の肩書かと思っていたが、そうではなかった。巻末に五十嵐のほかに5人の名前が並んでいて、執筆担当が列挙されている。主として菊地尊也が4つの章を担当し、他の4人がそれぞれ別の章を担当している。彼らは東北大学の五十嵐研のメンバーで、ゼミで五十嵐が文章をチェックし、文体や内容の調整を行ったとある。そのこと自体は普通に行われることで何の問題もないが、それだったら、表紙の著者名は「五十嵐太郎 編著」とすべきだろう。同じような体裁の中公新書の『近代哲学の名著』は、「熊野純彦編」となっている。やっぱ、「PHP新書」だからなあ、などと見下したくなってしまう。「父さん、えっらそうだね」と娘に言われるだろうけど。