行方昭夫 編訳『たいした問題じゃないが』(岩波文庫)を読む。副題が「イギリス・コラム傑作選」というもの。編訳者の行方が解説で「20世紀初頭に活躍したガードナー、ルーカス、リンド、ミルンという、4人のイギリスの名エッセイストの選集である」と書いている。このうちミルンだけは『クマのプーさん』の作者として知っていた。日本の英文学界ではこの4人は本国同様に、あるいはそれを凌ぐほどの人気があったという。それは日本の旧制高校の英語テキストとしてよく読まれ、大学受験にも頻繁に出題された。また新制大学の教養課程の英文購読のテキストとして、エッセイはこの4人が定番であったという。
しかし私にはいずれも物足りなかった。どれも大した主題でもないことをだらだら書き綴っているという印象だ。何か役立ちそうなこととか、ピリッとした語り口だとか、面白おかしいこととか、ほとんど感じられない。野見山暁治の『四百字のデッサン』と比べたら文字とおり雲泥の差ではないか。中では小説家でもあるミルンが比較的評価できた。そのミルンの一編「自然科学」から、
しかし私の自然科学の学徒としての経歴(中略)において今だに無念な失敗なので興奮するエピソードがあった。ガマを剥製にしようという試みだった。ガマを剥製にすることが可能なのかどうか、今でも分からないが、私たちの飼っていたガマが死んだとき、何らかのやり方で記念したいと思い、大理石の碑を建てられないので、剥製にするのがよいと思った。皮を剥いだ時点で、難しいことに気付いた。皆さんが、ある程度の大きさのガマの皮を手に持ったことがあるかどうか知らない。もしあれば、私たちがまず驚いたのは、ガマの体全体がこんなに小さな皮に包まれてしまうことだったのが分かるだろう。皮はおよそ形らしいものでなかった。懐中時計の裏側にのせて運べるほどだった。(中略)とにかく皮はガマとは似ても似付かぬものであった。剥製など無意味なのは明白だった。
それで思い出したことがある。小学校の夏休みの自由研究でカエルの押し花ならぬ押しガエルを作ろうと思ったことがあった。重ねた新聞紙の間に生きたトノサマガエルを挟み、石で重しをした。子供だから何日もたたないうちに様子をみたのだろう。重しが不十分だったのかもしれない。トノサマガエルはつぶれもしないで変わらず生きていた。押しガエルの研究はあきらめて逃がしてやったのだった。

たいした問題じゃないが―イギリス・コラム傑作選 (岩波文庫)
- 作者: 行方昭夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2009/04/16
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