平井正穂編『イギリス名詩選』(岩波文庫)を読む。イギリスの16世紀のスペンサーやシェイクスピアから、20世紀のエリオットやオーウェンまで、66人100篇の詩が取り上げられている。すべて英和対訳になっているが、私の読んだのは和文のみ。
一人4篇取り上げられているのが最も多く、ブレイクとワーズワス、ブラウニングの3人。さすがにこの3人は私も知っている。3篇がシェイクスピア、B. ジョンソン、ミルトン、テニソン、ハーディの5人となる。するとこのあたりがイギリスの詩人の最右翼ということになるのか。ダンが2篇、バイロンも2篇、キーツが2篇、E. ブロンテも2篇、イェイツが2篇しかない。T. S. エリオットはたった1篇だ。
好きな詩はウィリアム・ブレイクの「虎 The Tyger」。英文の冒頭1連と和訳を紹介する。
Tyger! Tyger! Burning bright
In the forests of the night,
What immortal hand or eye
Could frame thy fearful symmetry?
虎よ! 夜の森かげで
赫々(あかあか)と燃えている虎よ!
死を知らざる者のいかなる手が、眼が、
お前の畏(おそ)るべき均整を造りえたのであるか?
いかなる遥かなる深淵で、或いは大空で、
爛々(らんらん)たるお前の眼の焔は燃えていたのであるか?
お前の造物主は、いかなる翼をかって天に昇り、
いかなる手を用いてあの火を摑みえたのであるか?
そして、いかなる肩が、いかなる業(わざ)が、
お前の心臓の筋肉を捻(ねじ)りえたのであるか?
お前の心臓が脈うち始めたとき、
いかなる恐るべき手が、足が、用いられたのであるか?
いかなる金槌が? いかなる鎖が?
いかなる炉がお前の頭脳を鋳るのに用いられたのであるか?
いかなる鉄床(かなとこ)が? そしていかなる膂力(りょりょく)が、
お前の恐るべき想念を把握しえたのであるか?
星々がその光芒を地上に放ち、
その涙で大空を覆いつくしたとき、
造物主はお前をよしとして微笑(ほほえ)んだのであるか?
彼は小羊を造り、かつお前を造ったのであるか?
虎よ! 夜の森かげで
赫々と燃えている虎よ!
死を知らざる者のいかなる手が、眼が、
お前の畏るべき均整を造りえたのであるか?
また上田敏の訳で有名な「春の朝(あした)」は、
時は春、
日は朝(あした)、
片丘に露みちて、
揚雲雀(あげひばり)なのりいで、
蝸牛(かたつむり)枝に這ひ、
神、そらに知ろしめす。すべて世は事も無し。
と知られているが、平井は次のように訳す。
ピパの唄
歳はめぐり、春きたり、
日はめぐり、朝きたる。
今、朝の七時、
山辺に真珠の露煌(きら)めく。
雲雀、青空を翔け、
蝸牛、棘(いばら)の上を這う。
神、天にいまし給い、
地にはただ平和!
本書にはこの岩波文庫のほかに大判本があり、それにはCDが2枚ついていて、100篇の詩をイギリス人の朗読で聴くことができる。実は私はそれも持っていて、ブレイクの「虎」も聴いている。
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