コバヤシ画廊の太田三郎展「POST WAR 72世紀の遺書」を見る

   

 東京銀座のコバヤシ画廊で太田三郎展「POST WAR 72世紀の遺書」が開かれている(8月19日まで)。太田は1950年山形県生まれ。1971年に鶴岡工業高等専門学校機械工学科を卒業している。1980年よりシロタ画廊をはじめ個展を多数開いている。
 今回は「POST WAR 72 世紀の遺書」と題されている。そのことについて、入り口近くの壁に太田の書いた文書が貼られている。

「世紀の遺書」は、第二次世界大戦で日本が降伏した後、連合国から戦争犯罪容疑者として国際軍事法廷で裁かれ「戦争犯罪者」として、日本及び外地で亡くなった人々の遺書を可能な限り収集し、編纂した遺稿集である。巣鴨プリズン内に置かれた「巣鴨遺書編纂会」の呼びかけで遺族などから遺書や遺稿が寄せられ、多くの人の協力と援助によって1953年(昭和28年)に初版4,000部が出版された。戦犯死没者約1,000名の亡くなった場所は、日本、中国、蘭領東印度、ビルマ、香港、豪州、仏領印度支那、比島、グアム島など、広汎にわたる。また大将から工員、民間人まで階級もさまざまである。軍属や通訳であった朝鮮・台湾出身者45名も含まれ、同書に掲載された遺書ないし遺稿は701篇にのぼった。この書により、それまであまり知られていなかったBC級戦犯の存在に世間の注目が集り、1年で4版を重ねて延べ13,000部を数えた。また1984年(昭和59年)には、講談社で復刻版が出版され重版した。
「世紀の遺書」には、祖国敗戦の悲しみに加え、「人道の敵」と裁かれて命を絶たれた戦争犯罪者の苦悩が綴られている。多くは身の潔白を叫び、肉親の恩愛に慟哭し、また「死」の解決に苦心惨憺しつつも遂には恩愛を越えて祖国と世界への祈りに到達している。
私は第二次世界大戦に題材を得た「POST WARシリーズ」を四半世紀にわたり制作してきた。(中略)シリーズ11作目になる「POST WAR 72 世紀の遺書」は、文字を読みやすくするために、これまでのような切手シートとは異なる体裁にした。また兵士の心情そのものを始めて取りあげる作品になった。戦後72年となり、戦争の実態がますます判りにくくなっている今こそ、戦争犯罪者の死から多くを学ぶためにも「世紀の遺書」が再び読み継がれることを強く願うものである。           太田三郎


 画廊には20点の作品が展示されている。すべて同じ形式で、菊の紋の上に遺書の作者の名前と出身地、元の階級、処刑日、処刑地と処刑方法、年齢が記され、そして遺書が引用されている。今回のDMに使われた作品の遺書の一部をここに書き写す。

大分県出身
元陸軍中尉
安部末男
昭和二十六年一月十九日
マニラに於いて絞首刑
四十五歳


  裁きの真相
 皆様は戦争犯罪殊に何百何千名に対する虐殺、暴行、拷問云々等報道されると直ちに日本の神聖な裁判を連想し戦犯で処刑される者は血も涙もない鬼畜の様な人間と創造される事と思ひますが、現在比島で行われている戦争裁判は決して厳正でも公平でもありません。裁判は犯罪者を作る為に凡ゆる手段方法を用ひて犯行を押付けるかにその専門家が如何に汲々とし、日本人でありさえすれば又こぢつけながらも名目さへ立てば甲乙を論ぜずだれでもいい、犯罪者なりと烙印を押し人類の叛逆者とするばかりでなく、以つて日本軍の残虐無道振りとして世界に公表せんと全力を挙げて居るのが、又裁判と云ふ文明的美名の蔭に一人でも多くいためつけてやろうと云ふ如何にも弱小国家らしい復讐的殺人が、比島国の所謂戦争裁判の実相であります。―中略―
(中略)


  伝言
 部下の遺族の方々へ
 皆様の最も大切なご主人並ご子息をお預かりしてゐた元陸軍中尉安部末男であります。今回計らずも日本人として最も不名誉な戦争犯罪の責を問われ、隊長としてその生命をさへ救ひ得なかつたことを心から残念に存じます。裁判に於いては私の全力を尽くしたのでありますが私の微力は如何とも為し得ず、最悪の結果を来しました。比島上陸以来、討伐戦に勤務に、他の模範兵としての殊勲者を戦犯と云う汚名の下に鬼籍に入らしめるかと思ふと本人への不憫さは元より御一統様の御愁傷を推察申上げ腸を断たれる思が致します。
 然し乍らたとへ屍は比島の地にさらすとも私共の立場なり潔白はいつの日か必ず日本国民の全部に解つて頂ける時と私共の死が決して無意義でなかつたことの判明する日の来ることだけは固く信じて居ります。私共は戦争犯罪者として死刑の宣告を受けましたが全く事件に関係して居らず総てが無実の冤罪であることを当時の隊長として神明に誓ひ重ねて申上げます。では御一統様の再建日本に於ける御奮闘と御繁栄を祈りつつ御詫びの言葉に代へさせて頂きます。(後略)




 太田の「POST WARシリーズ」は優れた仕事だ。太田が「戦争の実態がますます判りにくくなっている今こそ、戦争犯罪者の死から多くを学ぶためにも「世紀の遺書」が再び読み継がれることを強く願うものである」と言うとおりだろう。できたら講談社あたりがこの遺書のダイジェスト版など、入手しやすい普及版を編集して発行してくれるとよいのだが。
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太田三郎展「POST WAR 72世紀の遺書」
2017年8月7日(月)―8月19日(土)
11:30−19:00(祝日開廊、休日休廊、14日・15日・16日休廊)
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コバヤシ画廊
東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1
電話03-3561-0515
http://www.gallerykobayashi.jp/


世紀の遺書

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