木下直之『股間若衆』(新潮社)を読む。副題が「男の裸は芸術か」というもの。2010年と2011年に『芸術新潮』に掲載された。街中に設置されている男性ヌード彫刻の股間の表現に注目したことから木下の調査研究が始まる。これは東京赤羽駅前に立っている川崎普照の「未来への賛歌」という彫刻作品だ。川崎は日本藝術院会員で、この作品は内閣総理大臣賞を受賞している。木下はこの男性像二人の股間が変なのだと言う。
改めて美術品のふたりに目を向けると、本当に全裸なのか、それともパンツだけは穿いているのか、はたまたパンツが身体と渾然一体と化してしまったのか判然としない。いかにもそれは「曖昧模っ糊り」としたままである。
なぜこのような表現になったのか。明治の半ば、明治美術会展に出品された黒田清輝の裸婦の絵の下半身が布で覆われた。風俗を紊乱するからとの警察からのお達しだった。またその少し後の文展では、朝倉文夫の男性裸体彫刻の股間表現が問題視され修正を求められた。当時の風刺漫画では朝倉文夫がのこぎりで男性彫刻の性器を切断する姿が描かれている。
そのような経緯で、男性裸体彫刻は性器の前にイチジクの葉をつけたり、なんとなくもっこりさせたり、直接提示するのを避けてきているのだ。
なるほど面白いところに目を付けたものだと思う。ただ読みながら、もう一歩踏み込んだ考察・分析があればと、多少物足りなさを感じたのも事実だ。もっとも今年になってから、本書の続編として、『せいきの大問題 新股間若衆』(新潮社)が発売された。どんな展開がされているのかちょっとだけ気になる。
- 作者: 木下直之
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2012/03/01
- メディア: 単行本
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