酒井忠康『ある日の彫刻家』を読む


 酒井忠康『ある日の彫刻家』(未知谷)を読む。世田谷美術館長の酒井が折に触れてつづった彫刻家に関するエッセイをまとめたもの。姉妹書に『ある日の画家』(未知谷)があるが、それに比べると見劣りがするのはなぜだろう。世田谷美術館で開かれた彫刻展に酒井が館長としてエッセイを寄せるのが多いようだ。そして酒井は何よりも彫刻家論が専門だと思っていたが。
 佐藤忠良については力が入っていて良い作家論になっている。ほかに、淀井敏夫、建畠覚造、飯田善國、保田春彦、山口牧生、リ・ウーファン、新宮晋、長澤英俊、若林奮、宮脇愛子、舟越桂や橋本平八その他が取り上げられている。
 建畠覚造について、息子の建畠朔弥と対談をしているがそれがおもしろかった。

建畠  親父に聞いたけど、天性で似せちゃうのがうまい人っているんですよ。親父も割と肖像うまくて、早いんだ。似せるには、写真から、徹底的に比例で測り通せばいいんだって。だから心棒作るときに、厳密に測って、鼻の位置からきっちり割り出して作ると嫌でも似るっていうんです。面のつなぎ方何かはどうでもなるんでね。やってみたけど確かに似る。そして猛烈に早く出来る。(笑)
酒井  朝倉文夫はそれだな。昨日見に行って思った。
建畠  ただし、父も言ってたけど、柳原義達さんの作ったものは凄いと。似るとお客さんも満足するんだけれど、自分の作った肖像には目も当てられん、そう言っていましたね。(中略)親父がいいっていう具象作家は柳原さんと平櫛田中。ワンクッション置いてたな。
(中略)
酒井  プロセス全体のね、あれだけ彫刻について考えて、実験的な試みをしてきた彫刻家は戦後いるかって言いたい、僕は。
建畠  だから日本の社会風土的なものへふっと行くじゃないですか、誰でも。一部の「もの派」が行っちゃったようにね。それがなかった人なんですよね。
酒井  だから日本人にはちょっと物足りないんだ、こういう人は。堀内さんも、ちょっとそういうところあるんだけれど、結局エロティックなところへぶら下がっていないと、自分がもたないんだよ。(笑)

 表紙の写真は世田谷美術館が所蔵する保田春彦の「赤錆の壁がある砦」という大きな彫刻作品。

ある日の彫刻家

ある日の彫刻家