今年の大仏次郎賞は内海健の『金閣を焼かねばならぬ 林養賢と三島由紀夫』(河出書房新社)に決まった。現実に金閣寺を焼いた僧とそれをモデルに『金閣寺』を書いた三島由紀夫を比較検討している。
私は本書を読んでいないが、選考委員の田中優子の選評に興味を持った(朝日新聞2020年12月15日朝刊)。自分の憶えを兼ねてそれをここに記しておく。
知的興奮を誘うスリリングな作品である。たとえばこの放火には「動機がない」ことが次第に明らかにされる。しかしそれは、統合失調症と診断された養賢の特殊事例ではないのか、と思ったが、哲学的な考察も相まって、人間の意識が実は出来事に立ち遅れて出現することがわかってくる。
この「人間の意識が……出来事に立ち遅れて出現する」という指摘はとても重要なことではないかと思っている。いずれこのことを考察してみたい。