荒川洋治 編『昭和の名短篇』(中公文庫)を読む。荒川洋治は現代詩人だが、本の読み巧者でもある。荒川の取り上げる書評は面白く私は絶大な信頼を寄せている。その荒川が取り上げた昭和の名短篇のアンソロジー。志賀直哉から色川武大までの14人の作家の14作品を取り上げている。読んだことのない作家も数人いたし、なかなか楽しい読書だった。
私にとって圧巻だったのは、小林勝「軍用露語教程」という作品。荒川が「解説」で簡単に紹介している。
……予科士官学校で潔は、対ソ作戦のためにロシア語の学習をさせられる。ある日、教官から原書を借りた潔は、ロシア語への興味がふくらみ、心の支えに。だが特攻要員となる彼は、「もうロシア語どころではなかろう」と教官にいわれ、突然、ロシア語を奪われてしまう。知るよろこび、そこから切り離される思いを、真率な、瑞々しい文章で伝える。
ほかに、
志賀直哉「灰色の月」
高見順「草のいのちを」
中野重治「萩のもんかきや」
三島由紀夫「橋づくし」
佐多稲子「水」
深沢一郎「おくま嘘歌」
耕治人「一条の光」
阿部昭「明治四十二年夏」
竹西寛子「神馬」
田中小実昌「ポロポロ」
野間宏「泥海」
色川武大「百」
また、「分量の関係、その他の事情で本書に収録できなかったが、重要と思われる短編の一部を以下に挙げておく」として次のように列挙している。
横光利一「微笑」
宮地嘉六「老残」
小山清「落穂拾い」
長谷川四郎「張徳義」
田村泰次郎「黄土の人」
安岡章太郎「サアカスの馬」
梅崎春生「侵入者」
有吉佐和子「海鳴り」
吉村昭「少女架刑」
木山捷平「苦いお茶」
網野菊「一期一会」
島村利正「奈良登大路町」
三浦哲郎「石段」
和田芳恵「雪女」
開高健「玉、砕ける」
松本清張「骨壺の風景」
小島信夫「再生」
あまり知られていないが、小山清は太宰治の弟子で、東京芸術大学教授で現代美術作家の小山穂太郎の父親だ。
今後の読書の参考に書き留めておく。