三浦篤『名画に隠された「二重の謎」』を読む

 三浦篤『名画に隠された「二重の謎」』(小学館101ビジュアル新書)を読む。これが意外におもしろかった。印象派前後のころの画家9人の作品を各1点取り上げ、その作品の「謎」を分析している。この手の一見手軽でおもしろそうな外見の新書がそこそこ流行っており、たとえば布施英利『構図がわかれば絵画がわかる』(光文社新書)のような本が多少とも話題になったりしている。そんな類なのかと半信半疑で手に取ったが、意外にもおもしろかった。
 取り上げられた画家は、マネ、アングル、クールベドガ、ボナール、マティスゴッホ、スーラ、セザンヌの9人。マネの「笛吹き」では消されたサインから平面性を追求した画風へのマネの逡巡を推測したり、ボナールの「逆光の裸婦」からは、画面に隠されたように描かれている4面の鏡を指摘し、ボナールこそは鏡に憑かれた画家であったと結論づける。
 マティスではあまり一般的でも典型的でもない作品「コリウールのフランス窓」が取り上げられる。中央に黒い矩形の窓らしきものが描かれ、その両脇に3色の縦の帯が描かれている。三浦はこれがマネの有名な作品「バルコニー」の再解釈ではないかと一見突飛な考えを提出する。マネの作品ではバルコニーに着飾った美しい女性が坐り、その後ろに男女が立ち、背後に4人目の人物が見えている。初めはどこに共通点があるのかと思ってしまうが、読んでいるうちに著者に説得されてしまっている。マネのこの作品はマグリットもパロディー作品を作り、そこでは4人の人物が4つの棺桶に変えられてしまっている。
 ゴッホが広重の浮世絵「亀戸梅屋敷」を模写した作品では、ゴッホによって絵の両側に描きこまれた変な日本語の謎が解読される。これも見事なものだった。セザンヌの「カード遊びをする人々」のていねいな作品分析も読み応えがあった。総じて楽しい読書だった。