山本弘

山本弘の作品解説(80)「河」

山本弘「河」、油彩、F20号(61.0cm×73.0cm) 1977年制作。河の水面が逆光で白く光っている。山本が住んだ飯田地方は南北に天竜川が流れ、そこに何本もの支流が流れ込んで深い谷を作っている。天竜川の両脇に段丘が作られていて、対岸が階段状に見えている。…

山本弘「削道AB」に関するコメント

昨日アップした山本弘の作品解説(79)「削道AB」に関してティーグル・モリオンさんがコメントを寄せてくれた。短いがとても的確なコメントだと思うので、ここに再録させていただく。 これは実物を拝見したい作ですね。この地の部分はどういう塗りなのでしょ…

山本弘の作品解説(79)「削道AB」

山本弘「削道AB」、油彩、F30号(73.0cm×91.0cm) 1978年制作。この年2回目の飯田市公民館での個展に出品された。展示作品は55点で、これが生前最後の個展になった。生涯ほとんど飲酒をやめなかったのに、アル中治療のため入院し退院してから2年間酒を飲まな…

山本弘の作品解説(78)「第三病棟」

山本弘「第三病棟」、油彩、F50号(116.7cm×90.9cm) 1976年制作。「3号病棟」とも書かれている。1975年、45歳のとき、アルコール中毒治療のため飯田病院精神科に入院した。翌1976年1月に退院したと年譜にある。以後2年間断酒した。退院した1976年9月に飯田…

山本弘の作品解説(77)「てるてる坊主」

山本弘「てるてる坊主」、油彩、F30号(72.5cm×60.8cm) 1977年制作。サインなし。30号と山本にしてはやや大きいサイズだ。てるてる坊主が描かれている。両目の目頭から涙が流れているように見える。頭の右側にあるのは太陽だろうか。てるてる坊主にしては細…

山本弘の作品解説(76)「子供」

山本弘「子供」、油彩、F10号(53.0cm×45.5cm) 1976年10月制作。左下に「弘」のサイン。中央に子供が描かれている。浴衣を着ているのだろうか。子供の背景の円が何なのか分からない。円の中が暗く、その外側が明るく輝いているようにも見える。顔の両側に筆…

山本弘の作品解説(75)「(題不詳)」

山本弘「(題不詳)」、油彩、F10号(53.0cm×45.5cm) 制作年不明。サインもなし。おそらく最晩年の作品。1978年か、1979年か。中央下部に薄紫色で不定形の円が描かれている。さらにその中に赤黒い絵具で小さな円が描かれている。その周囲や上方には縦の線が…

山本弘の作品解説(19)「日だまり」

山本弘の作品を紹介してきたが、晩年の象徴的ともいえる作風に達する前は具象的な作品を描いていた。亡くなる10年ほど前の代表作を再掲したい。 「日だまり」、油彩F50号(天地116cm左右91cm) 制作年不明。1972年の日本アンデパンダン展に出品された。当時…

府中市美術館の長谷川利行展「七色の東京」を見る

東京の府中市美術館で長谷川利行展「七色の東京」が開かれている(7月8日まで)。長谷川について美術館の発行しているパンフレットに簡単に紹介されている。 長谷川利行(はせがわとしゆき、1891-1940)、通称リコウ。京都に生まれ、20代は短歌の道を志し、3…

山本弘の作品解説(74)「窓」

山本弘「窓」、油彩、F10号(53.0cm×45.5cm) 1976年制作。赤黒い夕闇の中に明るい窓が光っている。赤黒く塗られた家の手前、右側によく見ると家と同色で横向きの人が描かれている。人の形の輪郭が描かれ、黒いズボンが描かれ、長靴のような靴が線描されてい…

山本弘の作品解説(73)「土蔵」

山本弘「土蔵」、油彩、F6号(41.0cm×31.8cm) 1976年制作。右下に「ヒロシ」のサインがある。題名どおり土蔵を描いている。土蔵も何度もテーマに取り上げた。建物をしばしば描いたが、多くは寂しそうな一軒家だった。土蔵も一軒家のバリエーションではない…

山本弘の作品解説(72)「緑の家(仮題)」

山本弘「緑の家(仮題)」、油彩、F4号(33.5cm×24.5cm) 制作年不明。少し遠くの左上に小さな一軒家が描かれている。ヘの字型の屋根が黒く描かれ、家の本体はモスグリーンの絵具がパレットナイフで厚塗りされている。全体にベージュ系の色が塗られ、家の右…

山本弘の作品解説(71)「庵」

山本弘「庵」、油彩、F10号(45.5cm×53.0cm) 1976年制作。小さな一軒家が描かれている。家の前に庭があり、そこに小さな猫も描かれている。家の裏手には山が迫っているようだ。このような一軒家は山本がしばしば取り上げたテーマだった。きっと山本はいつも…

山本弘の作品解説(70)「白い顔」

山本弘「白い顔」、油彩、F30号(91.0cm×73.0cm) 制作年不詳だが、1978年10月に飯田市で開かれた生前最後の個展に展示された。山本としては大きな作品で、天地91cmの30号になる。題名から白い顔が描かれているのだろうが、どれが眼鼻かと考えるとよく分から…

山本弘の作品解説(69)「骸骨(仮題)」

山本弘「骸骨(仮題)」、油彩、F12号(60.5cm×50.0cm) 1977年制作。題不詳だが明らかに骸骨が描かれている。あぐらを組んだ骸骨が頬杖をついている。山本の好きな色彩、ネギの色が太い筆触で周囲に描かれ、体の部分にも塗られている。下方のバッテンがスネ…

山本弘の作品解説(68)「工事場」

山本弘「工事場」、油彩、F10号(53.0cm×45.5cm) 1977年制作。工事現場で働く労働者というか人夫を描いているのだろう。当時の言葉では土方。前かがみになって働いている男は白い絵具に包まれている。 山本は若いころ日本美術会飯伊支部結成に参加し、日本…

山本弘の作品解説(67)「(題不詳)」

山本弘「(題不詳)」、油彩、F10号(53.0cm×45.3cm) 制作年不明。キャンバスの裏面に誰かの手で「人物80」と書かれている。誰の字なのだろう。「80」とは何か。1980年はずっと病院に入院していて絵を描くことは不可能だったが。しかし、サインや作風から晩…

山本弘の作品解説(66)「湘五才」

山本弘「湘五才」、油彩、F20号(72.8cm×63.0cm) 制作年不明。愛娘「湘」が5歳なら制作は1976年か1977年になる。いつもながらユニークな構図だ。自分の愛娘をこんな形に描いている。それでいて、どこか特徴を掴んでもいる。山本の優れている点はその卓越し…

山本弘の作品解説(65)「電柱のある一軒家(仮題)」

山本弘「電柱のある一軒家(仮題)」、油彩、F10号(45.3cm×53.0cm) 1977年制作。一軒家が描かれている。前に道があるが行き止まりになっているようだ。その右側に電柱が立っている。家は緑の木々に囲まれているようだ。山の中の一軒家なのだろうか。山本は…

山本弘の作品解説(64)「ピエロ(仮題)」

山本弘「ピエロ(仮題)」、油彩、F10号(53.0cm×45.5cm) 制作年不明。「弘」のサインと作風からおそらく晩年の作品。題名は書かれていないが、顔の中央の鼻が赤いので、いつも描いていたピエロだろう。頭が長いのはピエロ特有の帽子をかぶっているのだろう…

山本弘の作品解説(63)「灰色の家」

山本弘「灰色の家」、油彩、F10号(53.0cm×45.5cm) 1978年制作。晩年の48歳のときの作品。灰色の家とあるが、粗末な一軒家のようだ。山本はしばしば畑の中の作業小屋だったり農作業の道具置き場だったりしているような建物を描いている。これは家とあるが、…

山本弘の作品解説(62)「秋雨」

山本弘「秋雨」、油彩、F10号(45.5cm×53.0cm) 1978年制作。晩年の48歳のときの作品。裏面に秋雨と題名が書かれている。降り続く秋の雨を描いているようだ。画面は縦の動きが主流になっている。まさに雨が降っている情景だろう。以前にも霧そのものをテーマ…

山本弘の作品解説(61)「人物(仮題)」

山本弘「人物(仮題)」、油彩、F10号(53.0cm×45.3cm) 制作年不詳。しかし作風から晩年の作品に間違いない。おそらく47、8歳ころの作品。山本は51歳で自死しているので、40歳台後半は事実上の晩年になる。 強い筆触で人の形が描かれ、顔のみ灰色の絵の具で…

山本弘の作品解説(60)「庚申塚(仮題)」

山本弘「庚申塚(仮題)」、油彩、F10号(53.0cm×45.3cm) 制作年不詳。サインもない。そのことと作風から晩年の作品だろう。飯田地方に庚申と書かれた石碑の庚申塚が多くみられる。それを描いたものだろう。石碑の表面が画面いっぱいに描かれ、大きな文字で…

山本弘の作品解説(59)「河童(仮題)」

山本弘「河童(仮題)」、油彩、F10号(53.0cm×45.3cm) 制作年不詳。キャンバスの裏に未亡人の字で「河童 1977年」と書かれている。確かに河童に違いない。画風からも漢字の「弘」のサインからもこの年代で間違いないだろう。山本弘47歳の晩年の作品。痩せ…

山本弘の作品解説(58)「独りの道」

山本弘「独りの道」ボードに油彩、F10号(53.0cm×45.0cm) 1968年制作。山本弘38歳のときの作品。51歳で亡くなる山本の中期の作品。具象的な作風から後期の抽象的な作風に移り変わるころの過渡的な作品か。左手に弧を描くように描かれているのが道なのか。そ…

山本弘のスゴい絵

以前山本弘論を書いてくれた画家の奥村欣央氏が自身のブログに山本弘について書いてくれた。 俺など、まだ絵で色や形を追っているから、アマチュアである。山本弘の一番スゴい絵は、何も対象が描かれていない。すべてイメージを放棄しながら「重さ」が絵に定…

奥村欣央の山本弘論

奥村欣央氏から山本弘論が寄せられた。題して「山本弘の塗りのこし」。これがとても興味深かった。 山本弘の塗りのこし 奥村欣央 「セザンヌの塗りのこし」という須之内徹のエッセイは読んでいない。しかし、ここは僕(オレ)の画家としての経験から話したい…

玄関の絵を掛け替えた

新年に玄関の絵を掛け替えた。新しい絵は、山本弘「山沼」、油彩、6F。1976年作、山本46歳の作品。飯田市の代表的な山、風越山を後ろに、手前に白く光る沼が描かれ、中景にこれは梨の花だろうか、白い花が咲いている。飯田市の西にある風越山がやや暗く描か…

7月15日は山本弘の祥月命日

今日7月15日は山本弘の37回目の祥月命日だ。1981年のこの日亡くなった。アル中治療のため1年以上入院していた飯田市営病院を退院して100日ほどだった。家族を実家へ帰し、ひとりで自死した。51歳だった。 山本弘は15歳で終戦を経験してから、なぜか自殺願…