山本弘の作品解説(79)「削道AB」


 山本弘「削道AB」、油彩、F30号(73.0cm×91.0cm)
 1978年制作。この年2回目の飯田市公民館での個展に出品された。展示作品は55点で、これが生前最後の個展になった。生涯ほとんど飲酒をやめなかったのに、アル中治療のため入院し退院してから2年間酒を飲まなかったという。禁酒していた76年と77年に飯田市内の公共施設でそれぞれ1回ずつ個展を開き、78年には年初から飲酒を始め、その年のうちに2回、1月と10月に個展をした。その最後の個展に並べたもの。
「削道」とは何だろう。同じ個展に「削道A」と「削道B」というタイトルの作品も並べていた。それらとの区別のためにABとしたのだろうが、なぜCでなかったのだろう。このタイトルは個展の折り、山本が自分で紙にタイトルを書き作品の下に貼っている。当時私が記録のために展示風景を撮影していたので判明した。
 山本は若いときに山仕事にも従事していたらしい。削道とは山を切り開いて道を作ることを意味しているのだろうか。上部に半円が描かれているが、これは真夏の太陽だろうか。赤茶色の山肌に切り開いた道が1本出来つつあるようにも見える。いつもながら山本の非凡な造形力には圧倒される。酔っ払って飯田市内で開かれていた他の画家たちの絵を、こんなの絵じゃねえと言って煙たがられていたのも無理はない。非凡な才能が誰からも認められなかったのは苦しかっただろう。
 今日は山本弘37回目の祥月命日だ。