山本弘「(題不詳)」、油彩、F10号(53.0cm×45.5cm)
制作年不明。サインもなし。おそらく最晩年の作品。1978年か、1979年か。中央下部に薄紫色で不定形の円が描かれている。さらにその中に赤黒い絵具で小さな円が描かれている。その周囲や上方には縦の線が並んでいる。上方には薄紫の線で円弧が描かれている。これは何を描いているのだろう。
この作品ではパレットナイフは使われていなくて、ほとんど筆で描かれている。左下のいつもの葱の色の筆触がきれいだ。何が描かれているかよくは分からないが、林に囲まれた小さな池のようにも見える。だとしたらそれも自画像に似ているかもしれない。
何が描かれているか分からなくてもいいのかもしれない。ただ造形的に見てきれいだと思えばそれでもいいのかもしれない。だが、山本はいつも具体的な何かを描いていた。何か具体的なものに触発されて描いていた。針生一郎さんが言ったように「奔放な筆触や色塊のせめぎあう抽象化された画面に、イメージが胎生する瀬戸際をねらっているようだ」との言葉のあまりの的確さに感嘆する。
描かれているものがよく分からないのに見飽きない美しさだ。