山本弘「母子」、油彩、F15号(65.5cm×63.0cm)
制作年不明。サインと作風から最晩年のものと思われる。
中央上下に並んで丸が二つ描かれている。これが母と子の顔なのだろう。子の体は顔の右下にあり、母に頭を下げているような、母を慕っているような姿勢に見える。
母子というテーマをほとんどモノクロの画面に仕立てている。だがよく見れば母にも子にも黒い色の下に赤い色が置かれている。そのせいか、奔放に走る筆触のせいか、魅力的な画面に仕上がっている。
山本にとって家族と言うテーマは限りなくプラスの価値観に彩られている。針生一郎さんが、「家庭の幸福は芸術の敵とばかり、酒乱の傾向をつのらせて暴れるようになった」と書かれているが、特に娘への愛情は人一倍強いものだったのではないか。
晩年の作品について、針生さんは「作品はいよいよ妖しい光芒を放った」と書いてくれた。