山本弘の作品解説(61)「人物(仮題)」


 山本弘「人物(仮題)」、油彩、F10号(53.0cm×45.3cm)
 制作年不詳。しかし作風から晩年の作品に間違いない。おそらく47、8歳ころの作品。山本は51歳で自死しているので、40歳台後半は事実上の晩年になる。
 強い筆触で人の形が描かれ、顔のみ灰色の絵の具で輪郭を描き、白い絵の具で眼らしきものが描かれている。中間色が美しく、つくづく山本がカラリストであることを再認識する。派手な色を使わないできわめて美しい画面を作っている。
 人物を男ではないかと見たが、何をしているのだろう。左腕と左足を曲げていて、右腕は頭の後ろに曲げているように見える。踊っているのだろうか? 
 写真では分かりづらいが、右上にパレットナイフで描かれた薄く青みがかった大きな筆触が置かれている。全体が筆で描かれている中で、このパレットナイフで描かれた厚みのある筆触が艶めかしくアクセントになっている。
 10Fという大きさは山本にとって描きやすかったらしく作品数が多い。しかもどれも完成度が高い。高くはない天井の6畳の和室をアトリエにしていたため、また絵の具代にも不自由していて、大きな作品は少ない。100Fが何点かあるが、すべて飯田市美術博物館に収蔵されている。
 山本の絵画は筆触がとても美しい。それは写真では再現するのが難しい。ぜひ画廊に足を運んで私の言い分を確認してほしい。