山本弘の作品解説(73)「土蔵」


 山本弘「土蔵」、油彩、F6号(41.0cm×31.8cm)
 1976年制作。右下に「ヒロシ」のサインがある。題名どおり土蔵を描いている。土蔵も何度もテーマに取り上げた。建物をしばしば描いたが、多くは寂しそうな一軒家だった。土蔵も一軒家のバリエーションではないか。しかし描かれた土蔵は堅固というよりはどこか崩れそうで、しかし同時に美しく描かれている。白い背景に浮かび出ている土蔵は太いベージュの線で輪郭が描かれ、壁面にも同じ色が置かれている。このベージュが土蔵の色だった。白壁の土蔵もあるが、土色の土蔵も多かった。
 あるいは背景の白と見えているのは、土蔵の白壁の白を取り出して背景に置いたことも考えられる。飯田市美術博物館に収蔵されている「塀」という作品がそうだった。白い板塀が描かれていてそこに子供の落書きが線描されている。板塀の周囲が焦げ茶色に塗られている。板塀はしばしば腐れ防止の焦げ茶色の塗料が塗られていた。私は「塀」という作品は、板塀の形と色を分解し、本来板塀に塗られている焦げ茶色を分離して背景に置いたのではないかと推測していた。この「土蔵」もそうなのかもしれない。
 しかしそれらのことを忘れてただ造形的に見ても美しいと思う。山本が好きだった長谷川利行同様これも早描きだが、利行と異なり絵具が濁らない。
 若いころからHirossiとサインしていたが、晩年になって「弘」と変え、最晩年には時折ヒロシも使った。漢字と片仮名をどう使い分けたのか分からない。気まぐれだったのではないか。最晩年には署名のない作品も散見する。


 文中で紹介した「塀」へのリンクを張っておく。
山本弘作品解説(2)「塀」(2010年1月6日)