山本弘の作品解説(3)「銀杏」


 山本弘「銀杏」油彩、F20号(72.5cm x 61.0cm)
 イチョウの木の根元を描いている。おそらく夜だろう。背景の暗い紺色からイチョウの幹が浮き出ている。暗い紺色に青が混じり幹の輪郭を明るい空色が縁どっている。単純な造形だが、なぜ夜のイチョウを描いたのだろうと不思議だった。それが分かったのは奥村土牛の「醍醐」を知ったときだ。奥村は醍醐寺の満開の豪華な桜を描いている。「銀杏」は「醍醐」の構図を使っている。「醍醐」の華やかな構図を引用して山本は夜のイチョウを描いたのだろう。決して華やかではない暗い夜にすっくと立っているイチョウの力強い姿を。
 1978年10月の飯田市公民館での最後の個展で発表された。山本晩年の傑作のひとつだろう。山本は長谷川利行が好きでひそかに私淑していた。利行に触発されたような作品を描いていた。しかし晩年には利行をはるかに引き離したこのような境地に至っていた。
 9月の個展のDMはこの作品を使い、山本のことを「虚無の、孤高の天才画家」と形容しよう。