姫乃たま『職業としての地下アイドル』を読む

 姫乃たま『職業としての地下アイドル』(朝日新書)を読む。帯に宮台真司が推薦文を寄せている。

現役地下アイドルが幾多の数値データを、自分の実存を賭けて解釈していく本書は、狭義の「地下アイドル本」をはるかに超えて、芸能の歴史と本質への再考を迫るだろう。誰もが成し得なかった社会学的な考察だ。

 普通のアイドルと「地下アイドル」はどこが違うのか。姫乃は「アイドルを本質的に地下と地上に区分して、深度を測れる物差しは、知名度よりもアイドルとファンの距離感にある」という。ファンとの距離感が近いほど地下、遠いほど地上に分類できると。
 姫乃は地下アイドルとして活動しながら、仲間の地下アイドルたちやファンたちにアンケートへの協力を要請し、その結果をもとにまさに社会学的な考察を試みている。それが興味深い。
 どんな地下アイドルにもファンがいるのはなぜか、とか、地下アイドルファンの年齢は18歳から58歳、平均が35.4歳とか、地下アイドルファンの平均月収を34.7万円と計算している。
 またアンケートの結果から、地下アイドルは一般の若者に比べて、「親に愛されている」と感じている。両親から承認されて育ってきたという。ところが地下アイドルは一般の若者に比べていじめの被害に遭った経験が多い。そこから姫乃は、「地下アイドルは、両親に愛されて生きてきたからこそ、人に愛される喜びを誰よりも知っていて、それにもかかわらず、学校で受けたいじめ体験によって、その喜びを喪失してしまった女の子たちである」という仮説を提示する。
 AKB48を引いて、地下アイドルの業界でも「突出して綺麗な子よりも、親しみやすい普通の容姿のほうが人気が出る」という。容姿が整った子が必ずしも良しとされなくて、普通の女の子のほうが人気になって、容姿が整った子が自信を失ってしまう例が多い。そのことを越智啓太『恋愛の科学 出会いと別れをめぐる心理学』(実務教育出版)を引いて、「外見的魅力がつりあっていないカップルは早く別れる」ことが統計的に明らかにされていると紹介する。自分の外見に自信のない人が、相手を浮気させないようにするのは難しい(コストがかかる)ため、自分と釣り合いのとれた容姿の人と付き合うのが合理的な選択だということらしい。地下アイドルとファンの関係もこれに似た側面があるという。
 こんな調子で地下アイドルの世界を社会学的に分析してみせてくれている。姫乃はライブイベントへの出演とあわせ、文筆業も行っていて、連載も月9本を抱えているという。地下アイドルという知らない世界のことだったが、その社会学的分析はなかなか面白かった。


職業としての地下アイドル (朝日新書)

職業としての地下アイドル (朝日新書)