山本弘の作品解説(67)「(題不詳)」


 山本弘「(題不詳)」、油彩、F10号(53.0cm×45.3cm)
 制作年不明。キャンバスの裏面に誰かの手で「人物80」と書かれている。誰の字なのだろう。「80」とは何か。1980年はずっと病院に入院していて絵を描くことは不可能だったが。しかし、サインや作風から晩年の1977年か78年に違いない。しかし1978年10月の個展では展示されていなかった。
 人の顔を描いているようにも見える。しかしよく分からない。中央上部に顔のような大きな丸が見え、その中に眼みたいな形も描かれている。口みたいな形も見える。右下に向かって「く」の字のような2本の線も描かれている。左下には楕円の中に2個の太い筆触が描かれている。やはり顔なのだろうか。
 よく分からないながらも色彩と形が何か魅力的だ。赤い色が描かれてまたそれが半ば消された痕跡のように散っている。右下にははっきりと赤い色で「弘」のサインがある。
 よく見れば地味な色合いなのに描かれたばかりのように艶めかしい。こんなところが山本の真骨頂だ。俺は色が巧いんだとうそぶいていた。本当にその通りだった。自分のことは正確に知っていた。
 アートギャラリー道玄坂で9月に個展を開く予定でいる。そのときこの作品も並べるつもりなので、何が描かれているか実物を見て確認してほしい。