山本弘「湘五才」、油彩、F20号(72.8cm×63.0cm)
制作年不明。愛娘「湘」が5歳なら制作は1976年か1977年になる。いつもながらユニークな構図だ。自分の愛娘をこんな形に描いている。それでいて、どこか特徴を掴んでもいる。山本の優れている点はその卓越した造形性ではないだろうか。
山本がアル中治療のため1年間余入院していたときに病室で綴ったノートにこんな一節があった。
当れ 樹の真ん中へ 最後の涙が泉となるように 当れ 生涯一度のかけごとに 大樹裂けて泉の元となれ 湘はその泉なんだよ 大きな愛の下で育つがよい 私は泉の一滴だよ 私の涙で総身浴しなさい
10年後の湘ちゃんの言葉。「お父さんの涙で総身浴だなんて、気持ち悪い」。だが山本は誰よりも娘を愛していた。この「湘五才」は愛娘を独特の造形美で描いているのだ。
この写真は1978年の山本弘個展会場で、7歳の湘ちゃんと30歳の私。