辻惟雄『奇想の図譜』を読む

 辻惟雄『奇想の図譜』(ちくま学芸文庫)を読む。先月紹介した『奇想の系譜』(ちくま学芸文庫)の姉妹編ともいえるもので、前著同様すばらしかった。本書では北斎の「神奈川沖浪裏」などの表現をめぐり、その前例やまたヨーロッパへの影響など論じている。また「洛中洛外図」の舟木本を題材にそこに描かれている世界を詳しく分析している。若冲動植綵絵についても丁寧に分析する。白隠の禅画の見方もここで初めて教わった。辻は「稚拙の迫力」と言っている。白隠は単なる稚拙ではなかった。
 写楽は誰かについて、架空の二人を立てて対談形式で語らせている。様々な候補者をあげながら斎藤十郎兵衛説に傾いていく。これは結局中野三敏の説に収斂せざるを得なかった。
 末尾の「かざり」の奇想も読みごたえがあった。『奇想の系譜』があんまりおもしろくて、この姉妹編を初めて読んだが、どちらも素晴らしい日本美術に関する教科書だと思う。


辻惟雄『奇想の系譜』を読む(2018年4月16日)
ついに写楽の謎が解かれた(2009年3月11日)


奇想の図譜 (ちくま学芸文庫)

奇想の図譜 (ちくま学芸文庫)