辻惟雄『奇想の系譜』(ちくま学芸文庫)を読む。本書ははじめ1970年に美術出版社より発行された。私もその数年後に読んでいる。その本は誰かに貸して返ってこなかった。再読したくあらためて本書を入手した次第。本書には6人の画家が取り上げられている。岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長澤蘆雪、歌川国芳、みな有名な絵師たちだが、本書が発行されたころはみな傍流あるいは異端、知る人も少なかったという。私も40年前に読んだときは本当に驚いたものだった。
本書を読んでいたので平成になってすぐの頃、三の丸尚蔵館で若冲展が開かれ、動植綵絵が3回にわたって展示されたとき駆け付けたのだった。その見事さにただ圧倒されたことを今でも覚えている。宮内庁は皇居の中にある三の丸尚蔵館に観客が詰めかけてほしくなかったのか、ほとんど宣伝らしいことをしなかった。大手門の手前にも地味なポスターが目立たぬように貼られていただけだった。大きくはない会場に観客も多くはなかった。
山雪について、その「梅に山鳥図」を解説するのに、
……「梅に山鳥図」の、巨大な盆栽を思わせる奇矯な枝ぶりは印象的だ。たくましく延び生えようとする樹木の生命力と、それを仮構された幾何学的秩序に屈従させようとする一種偏執的な努力との、無言のせめぎ合いがここにはある。優勢なのはどうやら後者のほうらしく、ために、老梅は、ぎこちない姿勢のままで、まるで呪文にかかったかのように、金地の空間のなかに凝結させられている。
と、見事なものなのだ。その山雪の資質をさらに強調したのが「老梅図」であり、「寒山拾得図」だという。どちらもきわめてグロテスクな印象だ。
蕭白の「群仙図屏風」も奇矯そのものだ。以前千葉市美術館で見た蕭白展で、これまた圧倒された。日本のマニエリスムという印象だった。蕭白の「寒山拾得図」も山雪以上におどろおどろしている。
蘆雪の「虎図襖」は紀州串本へ仕事で行った折に無量寺で実物を見てきた。大きな作品だった。蘆雪は実物の虎を知らなかったから大きな猫のような虎を描いたのだと言われるが、その見方に辻は反対する。
とても良い本だと思う。唯一の不満は数多い図版がモノクロだということだけだ。
- 作者: 辻惟雄
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2004/09/09
- メディア: 文庫
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