山本弘の作品解説(80)「河」


 山本弘「河」、油彩、F20号(61.0cm×73.0cm)
 1977年制作。河の水面が逆光で白く光っている。山本が住んだ飯田地方は南北に天竜川が流れ、そこに何本もの支流が流れ込んで深い谷を作っている。天竜川の両脇に段丘が作られていて、対岸が階段状に見えている。山本が住んでいた上郷町(現飯田市)の段丘上からは眼下に天竜川が見下ろせた。対岸がおそらく喬木村で、正面に見える高台は天竜川に流れ込む何本もの支流によって抉られ、この絵の中央に丸が並んだように描かれているブロックになっている。高台の上はさらに伊那山脈に続いていて、その向こうが南アルプスになっている。南アルプス飯田市でももっと高い場所からでないとよくは見えない。
 天竜川は左から右に向かって流れ、対岸が東側になる。私はその喬木村に生まれ育った。特に東側は谷が迫っているので冬などは午前10時ころになるまで朝日が差さなかった。もし山本が午前中に東に向いて描いたのだったら、天竜川は逆光で光り対岸はまだ日が陰っていたに違いない。
 しかし実際は私が書いた絵解きが必ずしも合っているかどうかは分からない。ただ、逆光に光る河を見下ろしているのは確かだろう。河の向こうに河岸段丘が盛り上がっているのも間違いではないだろう。山本は段丘の作る風景を写し取ろうとしたのではなく、河岸段丘の作る空間が面白かったのだろう。