山本弘の作品解説(68)「工事場」


 山本弘「工事場」、油彩、F10号(53.0cm×45.5cm)
 1977年制作。工事現場で働く労働者というか人夫を描いているのだろう。当時の言葉では土方。前かがみになって働いている男は白い絵具に包まれている。
 山本は若いころ日本美術会飯伊支部結成に参加し、日本アンデパンダン展に出品を続けていた。34歳のとき、飯田リアリズム美術家集団(リア美)結成に参加し、長くその中心メンバーの一人だった。その後そのリア美を除名された。山本が亡くなったあと、その除名の理由を尋ねたとき、未亡人が会費を滞納したからでしょと言ったのに対して、リア美責任者の菅沼立男さんは、いや態度が悪かったからですと言った。さらに新聞にも菅沼さんは山本について「アカデミズムの成果の価値そのものを疑いながら、自らの主軸はアカデミズムから離れることができなかった画家」と書いている。
 山本は社会主義リアリズムの仲間に参加しながらもそれに飽き足らず、作風は仲間たちから離れていって、その集団から除名されるに至る。しかしながら最後まで肉体労働者などへの共感を隠さなかった。この「工事場」の土方がハローのような光に包まれているのがその証拠だ。土方が両足を踏ん張り前かがみになってツルハシでも振っているのだろう。それを美しい姿として描いている。
 なお、菅沼さんの言葉は「アカデミズム」=「非社会主義リアリズム」と読み替えると分かりやすいだろう。