村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?』を読む

 村上春樹ラオスにいったい何があるというんですか?』(文春文庫)を読む。副題が「紀行文集」で、アメリカ、ギリシャフィンランドアイスランドラオス、イタリア、熊本県など11の地域へ旅行した紀行文が集められている。春樹の紀行文だからみな楽しく読めるものばかりだ。そのほとんどが『AGORA』という雑誌に掲載したもの。知らない名前の雑誌だと思ったら、日本航空がファーストクラス向けに出している会員誌とのこと、知らないはずだ。海外旅行の楽しさを少しオーバーなくらいに語っているのはそのせいだった。
 カメラマンと編集者と3人で数日間旅行をしてこの紀行文を綴っている。多くがかつて滞在したところへの再訪記となっている。おそらく3人で数日間旅行して紀行文を書くという企画なので、書きやすいよう以前滞在した場所を選んでいるんだろう。
 ボストンには以前2年間滞在していた。ボストン・マラソンは何度も完走している。ギリシャにも短期間だが住んで、『ノルウェイの森』を書き始めた。でももう24年も前になるから土地の様子はずいぶん変わっている。ニューヨークではジャズ・クラブを訪ねた。フィンランドは27年ぶりだった。春樹はシベリウスカウリスマキが好きなのだ。クラシックの作曲家と映画監督だ。イタリアのローマにも2年か3年住んで、『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』を完成させた。その頃飲んでいたワインを短篇小説に登場させたら、それを作っているワイナリーのオーナーが何本か送ってくれた。今回はそのワイナリーを訪ねている。
 総じてレストランでの食事の話題が多い。それもおいしい料理を詳しく載せている。このあたりはJALのファーストクラスの会員を意識しているのだろう。てか、ファーストクラスの会員に対するJALの販促活動を援助しているつもりなのではないか。執筆当時は単行本になることまでは意識していなかったのだろう。その辺がちょっとクサいと感じるのは私が春樹ファンではないためか。
 春樹も大変だったのではないか。わずか数日間の滞在で旅行記をものにしなければならなかったのだから。楽しく読んだのは事実だったが、かつて針生一郎さんが東山魁夷について評した「バウムクーヘンみたいだ」を連想した。うまいが腹に溜まらん、と。