山本弘の作品解説(19)「日だまり」

 山本弘の作品を紹介してきたが、晩年の象徴的ともいえる作風に達する前は具象的な作品を描いていた。亡くなる10年ほど前の代表作を再掲したい。


「日だまり」、油彩F50号(天地116cm左右91cm)
 制作年不明。1972年の日本アンデパンダン展に出品された。当時山本弘42歳、抽象的になる前の中期の作品だ。山本としては大きな50号の作品に子どもを一人だけ描いている。冬の飯田は寒く、タイトルの日だまりが恋しい。これは男の子だろうか、女の子だろうか。これを描いた頃、前年1971年に一人娘の湘ちゃんが生まれて、当時1歳だった。俺は白がうまいんだと言っていたが、本当にそのとおりだ。山本が色彩の画家であることがよく分かる。背後の壁にまぎれて「Hirossi」のサインが記されている。
 アンデパンダン展で見たという見知らぬ人から手紙がきて、10万円で買いたいと言われた。当時私の初任給が43,000円だったから、10万円は現在の50万円くらいか。山本の返事は、「俺の絵は売り物じゃない」だった。当時もとにかく貧乏をしていたので、断ったと聞いて奥さんが本当に悲しかったと言った。売り物ではない絵はその後おそらく只みたいな値段で手放したか、酒代か絵の具代と交換されたはずだ。現在どこにあるか不明。ぜひ、もう一度見てみたい。


 (所蔵先不明)