山本弘の作品解説(63)「灰色の家」


 山本弘「灰色の家」、油彩、F10号(53.0cm×45.5cm)
 1978年制作。晩年の48歳のときの作品。灰色の家とあるが、粗末な一軒家のようだ。山本はしばしば畑の中の作業小屋だったり農作業の道具置き場だったりしているような建物を描いている。これは家とあるが、やはり苫屋のようなみすぼらしい家なのだろう。崩れそうな小屋、見捨てられたような建物を好んで描いていた。見捨てられたような沼を美しく書いた作品もあった。山本は見捨てられたようなみすぼらしいものに自分を重ねていたのではないだろうか。それらが実は美しく輝いていると。
 歪んだ五画形の家が描かれている。右下のサイン「弘」から左上に向かって伸びている動きがある。筆で短く横に引かれた線が斜めに伸びている。あるいはこれは道なのだろうか。左には縦の棒のようなものが描かれている。これははっきりと輪郭線が描かれている。これが道なのだろうか。
 未亡人の話では1976年、46歳のときにアルコール中毒治療のために前年から入院していた病院を退院し、以後2年間断酒したという。1977年に飯田市で個展を開き、1978年には飯田市で2回も個展を開いている。ただ、その1回目の個展のあとでまた飲み始めてしまったが。そんな状況のためか、この77年と78年は山本にとって豊穣の年だった。1979年はまた本格的アルコール中毒に戻ってしまい、1980年の1月再度アル中治療のために入院した。翌年4月にようやく退院したが、その3か月後に自死してしまう。51歳だった。
 最後に本当に大輪の花を咲かせたと思う。今年が没後37年となる。