山本弘の作品解説(64)「ピエロ(仮題)」


 山本弘「ピエロ(仮題)」、油彩、F10号(53.0cm×45.5cm)
 制作年不明。「弘」のサインと作風からおそらく晩年の作品。題名は書かれていないが、顔の中央の鼻が赤いので、いつも描いていたピエロだろう。頭が長いのはピエロ特有の帽子をかぶっているのだろう。痩せた首の長いピエロがただ立っている。山本は酔ってしばしばおどけていたが、それをピエロのようだと自嘲していたのだろう。
 ピエロは人を笑わせる。人はそれを見て指さして笑ったり陰で笑いものにしたりする。そうされることが彼の本意ではない。処世のためにピエロに扮しているだけなのだ。ピエロの扮装の後ろでは泣いたり怒ったりしているのだ。しばしば山本は酒を飲んで街に出てへらへらしていた。そうしなければ世間の虚飾に耐えられなかったのだ。
 そうすると、やっぱりこれも山本の自画像なのだろう。派手な色を使わないできれいな画面を作っている。