『世紀の贋作画商』を読む

 七尾和晃『世紀の贋作画商』(草思社文庫)を読む。副題が「"銀座の怪人"と三越事件、松本清張、そしてFBI」という大きな名前の列挙。それが誇大広告ではなかった。裏表紙の惹句から、

9.11テロの関連捜査をしていたFBIがニューヨークで捕らえたユダヤ人画商は、日本に驚くほどの数の「贋作」を売りさばいていた。バブル狂乱の前夜から銀座を拠点に暗躍したこの男は、企業、富裕層、美術館を標的に贋作を撒き散らし、作家松本清張にも接触していたという。82年には三越の贋作秘宝事件で世間を驚愕させ、社長解任・逮捕まで巻き起こした。FBIをして「世紀の贋作画商」と呼ばせたその数奇な運命、そして彼の贋作バブルに生命を与え続けた日本人の精神の「膿」を、綿密な取材からえぐり出す。

 このコピーのままの内容で驚いてしまう。三越の岡田社長が解任することになった「古代ペルシャ秘宝展」はほとんど偽物だったが、それを売り込んだのがイラン人画商イライ・サカイだった。その10年後またしてもその男は銀座の一流画廊に印象派などの「名画」を大量に売りさばく。
 本書の著者七尾は、サカイに頼まれて贋作を作っていた画家レアル・ルサールへのインタビューに成功する。ルサールは何と5,000枚もの贋作をサカイに渡しているという。その多くが日本に売り込まれ、それは「国立西洋美術館にもブリジストン美術館にもある」という。ゴッホ美術館にも展示されているそうだ。
 七尾はまたサカイへのインタビューにも成功する。サカイは贋作の売り込みに成功して今では500億円の資産家になっていた。だがついにFBIに逮捕され、司法取引の結果わずか3年半の有罪となった。
 サライ騎馬民族説で有名な江上波夫や、著名な日本美術史家の田中英道まで巻き込んでいた。だがサライの取引先の一流画廊の名前はどこにも書かれていない。それは彼らが被害者であるとともに(贋作を販売した)加害者でもあるから、名乗り出ていないためらしい。
 また1章を割いて、日動画廊の元社員が画廊の地下で有名画家の作品の「模写」を描かされていた事件の裁判について書いている。はっきりとした結論は書かれていないが、脱税のためだったというようにも読めるように書かれている。
 よく調べて書かれていると感心し、また日本の美術館やコレクターに渡っている有名な画家の作品の真贋について、なんだか不信感をかき立てられた。美術に関心があればきっとおもしろいだろう。