版画偽造事件のその後

 読売新聞に「偽版画100点超押収」「大量流通 押印・紙質異なる」「巨匠の作品多すぎる」「業界団体 大阪の画商追及」との記事が1面と27面に載った(2021年5月23日付)。

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1面

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27面

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27面つづき


 昨年12月に大阪の画商から多数の版画が押収され、平山郁夫東山魁夷片岡球子らの精巧な贋作であることが発表されていたが、警視庁と民間の鑑定機関「東美鑑定評価機構」がそれぞれ進めている鑑定で、作家4人の計100点を超える版画が贋作と確認されたという。

 贋作は大阪の画商が奈良県の版画工房の職人に依頼して制作したものだった。真作の版画は1作品あたり100~250点ほど刷られており、1点数十万円~数百万円で取引されてきた。この真作とは何か。

 実はこれらの「真作」版画とは、平山郁夫など作家の原画を元に、遺族など著作権者から職人に依頼し、版画工房で原画から版を描き起こし、それを刷った作品に作家が存命なら作家が、亡くなっていれば著作権継承者などがサインや押印をして流通するものだ。「真作」と贋作の違いは、版画工房の関わりの有無ではなく、著作権者の同意の有無による。

 本当に問題なのはここからで、このように作家本人ではなく、作家の原画を元に版画工房の職人が制作したものを、業界ではエスタンプと呼んでいる。翻訳すれば「複製版画」となる。元来まともな版画ではない。複製版画に過ぎないのだ。業界ではそれを「真作版画」と呼んでいる。

 問題なのはそれが1点数十万円~数百万円で取引されていることだ。まあ、ヒロ・ヤマガタとかラッセンなども似たような価格が付けられてきた。彼らの「作品」は数百点かそれ以上も刷られて、それが数十万円で売られてきたのだから。

 以前、銀座の松坂屋で「現代巨匠版画即売会」が開かれた折り、平山郁夫東山魁夷片岡球子らに混じって村上隆の「版画」も出品されていた。皆がリトグラフとかシルクスクリーンとか木版画という技法だったのに、村上隆の技法は「オフセット」とあった。1点20万円くらいの価格が付けられていたが、オフセットというのはポスターと同じ普通の印刷だ。村上は大きなサインを書いていたが、これはエスタンプが流通している業界に対する村上の痛烈な批判だろう。

 エスタンプなどという複製版画ではなく、本当の真作版画とは職人などではなく、作家本人が原画を直接描いた作品だろう。ある画廊の社長が、片岡球子は下手な画家なのに、エスタンプは職人が描いているから巧い絵になっていると。これを機にエスタンプなどという怪しい商品を流通させるのを考え直すべきだろう。

 

 ※追記

 オリジナル版画とエスタンプの違い

 オリジナル版画は画家が版画を制作する目的で下絵を描き、版作りと刷り、最終チェックに至るまで作家自身で、または作家の監修によってできあがった作品のこと。これに対してエスタンプとは、作家が版画にすることを意図しないで制作された作品を原画とし、作者または遺族の了解を得て、版画の技法で第三者が制作したもののこと。(「絵画の知識百科」より)