2005年に発表されたロバート・チャールズ・ウィルスンの「時間封鎖」(創元SF文庫)はSFの名誉あるヒューゴー賞を受賞した作品だ。斬新な設定で読者は誰でも驚かされるだろう。しかも細部の書き込みも緻密でヒューゴー賞受賞作の名に恥じない。裏表紙の解説から。
ある夜、空から星々が消え、月も消えた。翌朝、太陽は昇ったが、それは偽物だった……。周回軌道上にいた宇宙船が帰還し、乗組員は証言した。地球が一瞬にして暗黒の界面に包まれたあと、彼等は1週間すごしたのだ、と。だがその宇宙船が再突入したのは異変発生の直後だった−−地球の時間だけが1億分の1の速度になっていたのだ! ヒューゴー賞受賞、ゼロ年代最高の本格SF。
この宣伝文は誇大広告ではない。宇宙全体を舞台にした壮大な設定で、地球の1年が宇宙の1億年になる。地球から火星に地球の生命を送り出せば、瞬く間に火星が地球化することになる。壮大な実験が可能になる。わくわくする面白さだ。
そして最後に謎が明かされる。すると、読者はどう思うのか。よく考えられた、練られた、荒唐無稽なお話だったんだ。それだけだ。だからスタニスワフ・レムが欧米のSFを否定的に批判したのだ。そのとおりだ。残念ながらほとんどのSFは読むに価しない。本格SFと言ったってたかだか「火星のプリンセス」を書いたバロウズのスペースオペラと実は五十歩百歩なのだ。
スタニスワフ・レムのすごさがあらためて分かる。「ソラリス」「砂漠の惑星」「エデン」「泰平ヨンの航星日記」など。レムのSFを読めば真の地球外生命の可能性は何かとか、人間の認識の限界とか、哲学的な問いかけが語られていることに深く感動する。そこにこそ、SFの真の意味があるのだ。
もう一人A. B. ストロガツキイを付け加えるべきかもしれない。タルコフスキーの映画「ストーカー」の原作者だ。
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