山本弘作品解説(2)「塀」(再録)


 山本弘の油彩画「塀」、F12号(60.6cm x 50cm)
 これは2007年4月6日にアップしたものの再録だ。写真が大きく扱えるようになったので改めて紹介したい。私の好きな作品の一つだ。
 白が美しい絵だ。生前山本は、俺は白が巧いのだと言っていたがそれがよく分かる。パレットナイフを使って塀が描かれている。板塀のようだ。下の方に子どもが描いた落書きみたいなのが見える。この落書きみたいなのはデュビュッフェを思い出させる。板塀に見えるが白い。周囲が焦茶色だ。板塀はよく防腐のためにステインやクレオソートを塗ってあることが多かった。このステインだったかクレオソートだったかを塗ると焦茶色になる。
 ここからは私の想像だが、板塀の形態を白い絵の具で表し、板塀の色をその周囲に塗ったのではないだろうか。つまり形と色の分解というある種のキュビズムではないのか。ただ、同じような仕事が他にないのがこの説の弱点だ。
 でも、その解釈が違っていたら、白いペンキを塗った板塀になる。それは突然暗がりのなかに現れた白い板塀なのか。


 1978年10月の飯田市公民館での個展で発表された。この年1月にも同じ場所で個展をしているので、制作はおそらく1978年。1977年にも同じ場所で個展をしている。1977年の個展の出品点数52点、1978年10月の個展の出品点数55点、同年1月の個展の出品点数は不明だが、50点前後ではなかったか。2年間で3回個展を開き、出品点数は150点くらいだと思う。そしてこの1978年10月の個展が生前最後の個展になった。飯田市での個展は毎回ほぼ3日間。DMハガキは文字のみの1色刷り。知人のみが数十人来てくれるというものだった。最後の個展の時、酔っぱらいながらも車椅子に乗って展示の指示をし、不自由な手で題名を書いて貼らせた。その時の情景を覚えている。
 この作品は山本弘没後10年目の1991年飯田市美術博物館へ寄贈されたが、その年の新収蔵品展に展示されたきりその後一度も公開されていない。実物を見れば誰でもその美しさに圧倒されるに違いない。


飯田市美術博物館所蔵。