God bless Americaというビデオ作品

 2年ほど前だったか、横浜美術館で予定されていた高嶺格のビデオ作品が直前に展示を外されたことがあった。美術館による自主規制とのことだった。問題になったビデオの内容は、脳性麻痺だったかで重度の障害を持つ身障者に作家高嶺が手で刺激して射精させてあげ、それを作家の額に括りつけたビデオカメラで撮影したものらしい。もちろん被写体となった身障者の同意も得てある。
 これを聞いたとき、何だかなあと思って作品の展示に積極的には賛意を感じなかった。その後この作家が東京国立近代美術館で展示された「God bless America」の作家だと知って少し見方が変わった。
 「God bless America」もビデオ作品で、アトリエに住み込んで粘土で彫刻を作る作家と友人や恋人の姿を撮影している。粘土は2トンという大きなもの、それを友人たちと手や足まで使って、ゴリラにしたり、アメリカ大統領?に変えたりする。コマ落としという手法で、18日間をわずか十数分に短縮している。朝が来て昼になり日が陰って夜になり電灯を付ける。作家は彫刻を作り、パソコンを叩き、隅のベッドで恋人と愛を交わし、眠る。音はなく、バックミュージックとして終始God bless Americaの歌が流れている。
 印象的だったのは、ビデオなど映像作品ではなかなか最後まで付き合う観客が少ないのが普通なのに、この作品では若者から老人夫婦まで数人の観客が途中誰も立たなかったことだ。私はこの作品がどんなメッセージを発しているのかいまだに正確には分からないままだ。それにも関わらず、数年経った今も強く印象に残っている。優れた映像作家だと思う。