一番好きな浮世絵師が英泉だった。

mmpolo2007-09-26




 25日の12チャンネル「開運!何でも鑑定団」に渓斎英泉の浮世絵45点が出品され、1点30万円、合計1,350万円の評価がついた。英泉は最も好きな浮世絵師だった。
 30年ほど前浮世絵に興味を持ってあちこち見て歩いた。渋谷東急本店で浮世絵の展示即売会があり、5万円用意して買うつもりで出かけた。当時の給料の半分くらいの金額だった。ところが一番安いもので7万円だった。それは極めて状態が悪かった。当然何も買わなかった。
 浮世絵を見ていると様々な絵師がいて好みも決まってくる。私は渓斎英泉が好きだった。一般に好みは初期と末期に分かれるという。初期の素朴な春信に向かうか、幕末の浮世絵師、国貞、国芳、英泉、芳年、月芳などに向かうか。幕末の浮世絵は爛熟の様子を示している。色彩は毒々しく、絵柄も危ない。特に英泉の美人画は赤と緑を対立させて妖しくも美しい。
 ところが画集では見られるものの、英泉の実物をまとめて見る機会がなかった。見たい見たいと思って20年、ようやくラフォーレ原宿の裏手にある太田記念浮世絵美術館が英泉の特集をしてくれた。夢がかなった。まとめて見るとよく分かるものだ。英泉は歌麿に敵わなかった。英泉を見て初めて歌麿の偉大さが理解できた。デッサンの確かさ、線の美しさ、色彩の見事さ! 歌麿に匹敵できるのは北斎くらいだろう。広重さえ見劣りがする。いわんや英泉をや。
 しかし、そう言いながらも幕末の浮世絵師たちの危なさは、見過ごすことのできない魅力を持っている。逆さに吊った妊婦の腹を切り裂く月芳の残虐な絵!
 

 10年ほど前、神田の画廊で英泉の美人画の掛軸を見た。状態の良いもので、15万円だった。買いたいと思ってカミさんに相談した。どこの世界に浮世絵を軸装するの? というのが彼女の答だった。掛軸は床の間に飾るものだ。浮世絵は床の間に掛けるものではない。軸装するのが間違っている。さらに現代のマンション生活に床の間はない。掛軸は床の間に掛けるほか置く場所がないのだ。買わなくて正解だった。