西舘好子『表裏井上ひさし協奏曲』(牧野出版)を読む。井上ひさしは私が好きな劇作家の一人だ。私が高校1年の時にNHKテレビで『ひょっこりひょうたん島』が始まった。当時世界史の小宮山先生が、この番組は面白いから見なさいと言った。本当に面白かった。『ひょうたん島』の作者が井上ひさしと山元護久だった。
次に見たのがこれまたNHKテレビの『国語元年』だった。カミさんが見たいと言って見たのだった。けた外れの面白さだった。それから井上ひさしの放映された芝居を見始めたのだった。素晴らしい才能だと思った。
その井上ひさしが離婚したと知った時、奥さんの不倫が元だと聞いた。奥さんの写真は見たことがなかったが美人だということだった。井上ひさしは典型的なブサメンだった。ああ、ブサメンは不倫されるのかと、少しだけわが身を思った。
本書はその別れた奥さん西舘好子が二人の夫婦生活を書いている。表紙に若い頃の二人の写真が載っている。なるほど彼女は美人だ。これはモテただろう。
最初、好子が井上を実家へ連れてくるとき、「変な顔をしているけど、一度会ってほしい。作家になりたいっていう人なんだけど……」と父に言った。井上は浅草のストリップ小屋「フランス座」で座付き作者をしていたりした。一緒になっても仕事の大半はNHKの放送台本の執筆だった。
しかしある時、『ひょっこりひょうたん島』の企画が持ち上がり、放映されると大成功する。井上は売れっ子になる。年収で5千万円ほどになった。
テアトル・エコーの芝居も書いた。小説も書き始めた。『手鎖心中』が直木賞を受賞した。受賞後、日常生活が一変した。小説の原稿依頼が殺到した。しかし、井上は遅筆だった。原稿の遅れをいつも好子が言い訳した。
しかし、驚くべきことに井上はDVだった。好子に暴力をふるった。同居する好子の両親にも、誰が稼いでいる金で豪華な生活をしているのかと言い放った。
井上は自分の芝居を専門に公演するための劇団「こまつ座」を旗揚げした。好子がプロデューサーとなった。旗揚げ公演は『頭痛肩こり樋口一葉』だったが、大当たりした。劇団運営は順風満帆に見えたが、井上の台本の遅れは相変わらずだった。今まで原稿の遅れを弁護してきた好子が井上を責める立場に変わった。
好子は旅公演のとき、酒が入っていて舞台監督の西舘と関係を持った。そのことを井上に相談した。井上は回りの人に話し、笑い話にすることもあった。しかい、突然暴力を振るわれたりした。
病院へ駆け込むと、肋骨が折れ、鎖骨にひびが入っていた。全身打撲、鼓膜は破れていた。その数週間後、井上が離婚の記者会見を開いて、二人の結婚生活が解消した。
そうか、井上がブサメンだから好子が浮気したのではなかった。井上ひさしがこんなにも人格が破綻した人とは知らなかった。と言いながら、井上は私にとって優れた劇作家であることに変わりはない。先月見た『少年口伝隊1945』も素晴らしかったし。わが師山本弘もDV男で奥さんは苦労したことを思い出した。私生活と作品の素晴らしさは無関係なのだとあえて言おう。
タイトルの協奏曲は、本当は狂詩曲かもしれない。
