池澤夏樹・池澤春菜『ぜんぶ本の話』を読む

 池澤夏樹池澤春菜『ぜんぶ本の話』(毎日文庫)を読む。夏樹、春菜の親子による本に関する対談集。まず二人が親子だってことを知らなかった。池澤夏樹は読んだことはあるが、池澤春菜は新聞の書評子としてしか知らなかった。春菜の書評はミステリやSFのジャンルが多く、私にはあまり刺さらなかった。

 さて、池澤親子による本をテーマにした対談である。その前に池澤夏樹福永武彦の息子に当たる。また夏樹の母親が詩人の原條あき子だった。つまり親子3代4人が作家ということになる。

 対談は総体として、夏樹が娘春菜のレベルに合わせている感がある。春菜の関心の高い分野での対談になっている。だからミステリーとSFと児童文学に関する話題が多い。そうは言いながら、何冊か読んでみようと思った本があった。

 夏樹が『星の王子さま』で問題になる「キツネを飼いならす」という文について、今まで「仲良くなる」「友だちになる」と訳されてきたが、カトリックの世界観では人間は神の代理人だから、人間と動物は友だちじゃなく、動物は飼いならしてケアしてやるべき存在なんだと言っている。そこが宮沢賢治と違うところだと。

 村上春樹について、夏樹が一番面白く読んだのは『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』で、彼の作品はある時期までかなり熱心に読んだ。だけど、だんだん気持ちが離れてしまった。その理由を、あの文体は飽きるんだよと言っている。

 ミステリーでは、夏樹が好きな作家ジョン・ル・カレについて手短に語っている。

夏樹  いま言えるのは、かれはやっぱり冷戦期の作家だったということだね。冷戦が終わってからも書いているし、悪くはないけど、もう一つ深みがない。テロリストや武器商人が相手ではやっぱりダメなんだ。ということをふまえて、ル・カレで良いのは『ロシア・ハウス』。あとはもちろんスマイリー3部作。イギリスの情報部MI6の中にソ連のスパイがいる。それが誰かを特定して排除する。ソ連とイギリスの対決がカーラとジョージ・スマイリーという2人の男の対決として描かれる。彼らの人間的な弱みや作戦行動の細部まで含めて、濃密なイギリス文学になっている。

 夏樹の乳福永武彦に対する評価は、『夏の花』はあまり感心しない。『風土』はいかにもフランス風に書いた長編小説だと思うが悪くない。『風のかたみ』も良い小説だ。これはおすすめできる。小説以外だと『芸術の慰め』という西欧の画家を取り上げた美術エッセイで手堅くまとまっている。『海市』のように通俗に傾いた作品はいかがなものかと思う。福永の代表作を一つ選ぶとしたら『死の島』になる。長すぎるせいかあまり読まれない作品だけど、と。

 福永武彦の友だちの中村真一郎では、一番良いのは『雲のゆき来』という中篇。これはいくらでも褒められるというぐらい良い小説だとまで評価している。