書店の平台にハヤカワ文庫の新刊ジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ(新訳版)』が並べられていた。以前、同じハヤカワ文庫から出ていたものは菊池光・訳だったが、これは村上博基・訳になっていた。帯によると、これを原作に作られた映画『裏切りのサーカス』が公開されることに合わせて新訳を発行したらしい。
この「サーカス」は空中ブランコが登場するサーカスではなく、英国秘密情報部のこと。ロンドンのケンブリッジ・サーカスにあるのでこう呼ばれている。
『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』は30年前に一度読み、3年前にもう一度読み直した。そのときブログに紹介している。
イギリスの作家ジョン・ル・カレ「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」(ハヤカワ文庫)を読み直し、30年前同様圧倒される。ル・カレはスパイ小説専門の作家だ。本書はイギリス情報部の中枢に潜むソ連のスパイを捜し出す話。文庫本で500ページ以上あり、一度は引退させられたスマイリーが再び呼び戻され、謎の男をあぶり出していく。
派手なアクションはなく、地道に考察を進めていく。小さなたくさんのエピソードが積み重ねられ、ジリッジリッと核心に近づいていく。そのストーリーテラーの見事さ。小説の細部の豊かさ。
この作品の後再びスマイリーを主人公にした傑作「スクールボーイ閣下」と「スマイリーと仲間たち」が続き、さらに何作かが書かれた後、最高傑作の「パーフェクト・スパイ」が発表された。
スマイリーは次のように描写される。小柄で、肥り肉で、猫背で分厚い眼鏡をかけ、服装の趣味もいただけない。動作はぎこちなく、足取りはおぼつかなげで、見ればもう相当な歳だ。しかし彼の奥さんは美人で評判のレディ・アンだ。レディの称号を持っている魅力的な女性。だがアンはスマイリーを捨てて若い男とどこかへ旅行している。この時井上ひさしを連想した。井上も美人の奥さんに去られてしまった。そして私は似た境遇のもう一人の男を連想した。
「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」を読んだのは30年ぶりくらいか。私にとってル・カレはスパイ小説作家などではなくて、最高の作家の一人なのだ。
・「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」に圧倒される(2008年12月29日)
本書の発行とあわせて、しばらく品切れだった『スクールボーイ閣下』と『スマイリーと仲間たち』(いずれもハヤカワ文庫)も店頭に並んでいる。さて、映画がどんな風に作られているのか楽しみにしよう。
ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)
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