ディートマー・エルガー『評伝 ゲルハルト・リヒター』を読む

 ディートマー・エルガー『評伝 ゲルハルト・リヒター』(美術出版社)を読む。リヒターは「ドイツが生んだ現代で最も重要な画家」(東京国立近代美術館のちらし)と言われている。1932年ドイツのドレスデンで生まれた。第2次世界大戦の結果ドレスデン東ドイツになる。リヒターは1961年西ドイツのデュッセルドルフに移住。最初、雑誌や新聞記事の写真を油絵に描き起こすフォト・ペインティングを描き、ついでカラー・チャートを再現したような作品、キャンバス全体を灰色で塗ったグレー・ペインティング、様々な色を塗り重ねた抽象画、デュシャンの「大ガラス」に対抗した透明なガラスだけの立体作品などを作る。

 フォト・ペインティングの頃、初期はドイツ・ポップアートなどとも言っていた。白黒写真を灰色で描き起こし、一部を塗りつぶしたりしてリアルなコピーとは一線を画している。階段を降りるヌードは、デュシャンの「階段を降りる裸体」を意識している。

 1988年の連作「1977年10月18日」はドイツ赤軍のテロをテーマにしている。刑務所に収容されて自殺したり殺されたりした犯人たちの写真からフォト・ペインティングを描いている。

 「ビルケナウ」はナチのユダヤ強制収容所の名前。しかしそのタイトルの作品4点は2014年に描かれ抽象画だ。東京国立近代美術館のちらしによると、

見た目は抽象画ですが、その下層には、アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所で囚人が隠し撮りした写真を描き写したイメージが隠れています。

「ビルケナウ」

 リヒターについて大まかなことが分かった。6月から始まる東京国立近代美術館ゲルハルト・リヒター展で、リヒターの画業をじっくり確かめてみよう。