東京ステーションギャラリーの吉村芳生展を見る


 東京駅にある東京ステーションギャラリー吉村芳生展「超絶技巧を超えて」が開かれている(1月20日まで)。吉村は1950年山口県生まれ。2013年に63歳で亡くなっている。
 吉村は1年365日毎日1枚の自画像を描き続けたり、新聞紙の1文字1文字をすべて書き写したり、ある種偏執的な作業を延々と続けてきた。それらを鉛筆で描いてきたが、後半は色鉛筆を使って花などを描いている。いずれも超細密な仕事で、新聞の一面全部の文字を正確に書き写しているのは驚くというかあきれるような仕事だ。
 新聞紙に自画像を描いていたが、新聞そのものも書き下ろして自画像と組み合わせたり、1年間フランスに滞在したときは、パリの新聞に自画像を描いたりしている。後半の色鉛筆の作品もきわめて写実的なもので、左右10メートルの長さの川岸に花が咲いている作品とか、豪華な藤棚の作品とか、なかなか見ごたえがあった。


 さて、東京ステーションギャラリーで取り上げられるのだから高い評価を得ているのは間違いないのだが、その評価というのは新聞紙の再現とか膨大な自画像の制作とか、吉村の他に類を見ない行為に対してだろう。そのことに異を挟むものでは決してない。優れた仕事だと思う。美術には行為や作品の意味=メッセージを評価する軸がある一方、造形的な評価軸もある。メッセージ性に優れていて造形的にも優れているものもある。ただ造形的にのみ優れている場合もある。
 そして吉村の場合は行為が評価されていて、しかし造形的にはさして評価することができない。美術館のちらしには、「ただ上手いだけの絵ではない、描くこと、生きることの意味を問い直す真摯な作品の数々を、ぜひその眼で目撃してください」とあった。
     ・
吉村芳生展「超絶技巧を超えて」
2018年11月23日(金)−2019年1月20日(日)
10:00−18:00(金曜は20:00まで)月曜休館
     ・
東京ステーションギャラリー
東京都中央区丸の内1-9-1
電話03-3212-2485
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/
※JR東京駅丸の内北口改札前