ジェイムズ・ロード『ジャコメッティの肖像』を読む


 ジェイムズ・ロード『ジャコメッティの肖像』(みすず書房)を読む。ロードはアメリカの美術評論家でエッセイスト。本書は今年の正月に見た映画『ジャコメッティ』の原作だった。映画について私はブログに紹介した。その一節を引く。

……ジャコメッティが世界でもトップクラスの彫刻家であることを知らなかったら、この映画は一般の観客に対して説明不足だろう。ジャコメッティを知っている現代美術愛好家にだったら、きっとそれなりに楽しめるだろうが。

 映画はジャコメッティがロードの肖像を描いては消し、描いては消しの作業を延々と繰り返しているのを映しだしている。それは原作通りなのだが、原作ではモデルを続けながらロードが考えていたことが詳しく綴られている。毎日肖像制作が終わったところでロードが出来栄えについて印象を記している。素晴らしいところまできてもジャコメッティはさらに手を加える。作品はダメになりジャコメッティは消してしまって新たに描き直す。ロードは毎日ジャコメッティが描き始める前に昨日までの結果を撮影していた。18日間18枚の絵がロードの白黒写真の記録として掲載されている。
 素晴らしい達成だとロードが思ってもジャコメッティは満足しない。「よくなっている」と彼(ジャコメッティ)は言った。彼は絵を調べるためのカンヴァスをイーゼルからはずした。「あと5分でものすごく遠くまで進める地点に、いまこの絵は到達した」。しかし翌日、作品の状態は再び悪くなっていったようだった。
 ロードがアメリカへの帰国を何度も延期し、2日で完成するはずのモデルの仕事が18日間続いた。絵はアメリカで行われる国際美術展に出品することが決まっており、その送り出す日が最終的な締め切りを決定した。完成した作品が本書の表紙に使われている。
 原作はとても面白かった。ほとんど感動したと言ってもいい。ロードは毎日記録を採っていた。ジャコメッティとの詳細なやり取りやロードのモノローグが心理小説のようでもある。これを映画にするのは難しいかもしれない。本書を読んだときの感動は映画には抜けていた。


ジャコメッティの肖像

ジャコメッティの肖像