コバヤシ画廊の村上早展を見る

 東京銀座のコバヤシ画廊で村上早展が開かれている(12月2日まで)。村上は1992年群馬県生まれ。2014年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科版画専攻を卒業し、2017年同大学大学院博士後期課程中退。2016年ワンダーウォール都庁で初個展、ついでコバヤシ画廊、東京オペラシティアートギャラリー、アンスティチュ・フランセ東京ギャラリー、中国北京のギャラリー、そして今回の個展と、たった2年間で6回の個展を数える。
 受賞歴も2014年のシェル美術賞展入賞、FACE2015の優秀賞、山本鼎版画大賞展で大賞、トーキョーワンダーウォール公募2015のトーキョーワンダーウォール賞、群馬青年ビエンナーレ2016優秀賞、アートアワードトーキョー丸の内2016フランス大使賞など、輝かしい実績を誇っている。
 村上の言葉を引く。

……本能で描いた線を腐食し、傷にすることで、版上に閉じ込める。/「銅の版=人の心」として、そこにつける傷は心的外傷と同等のものであり、また、傷につまるインクは「血」とし、それを刷り取るための紙は「ガーゼ、包帯」であると考えている。版上にできた傷は削ることで消すことができるが、完全に元の状態に戻すことは難しくうっすらと痕になって残ってしまう。これは心的外傷(トラウマ)に似かようところがあると考える。/心の傷を版の上に再現していくことを意識し制作している。







 画廊には大きな銅版画の作品が7点展示されている。大きさはいずれも118cm×150cmある。大きいので1点の作品に9枚の銅板を使っている。
 リフトグランドという技法も使っている。これは筆で描いた痕のような自然な傷を版につけることができ、線のかすれ具合や、拭き取った痕のような表現もできるので、自身の制作のテーマにこの技法が噛み合う、と書いている。
 村上の画面にはいつも人や動物が描かれている。それらは傷ついているようであったり、どこか虐げられているようであったりしている。椅子の下に避難している女の子の身体にはたくさんの小さな矢が刺さっている。下半身が獣に変身している女の子もテーブルの下に隠れているが、リンゴが投げつけられている。これはカフカの『変身』をモティーフにしているらしい。魚の下半身に添え木の手当てを受けているのは骨折した人魚のようだ。それらが単純な太い線で描かれている。
 村上は若いながらもすでに一つの世界観を持っているようだ。そこから生まれる作品が、多くの人を魅了し、たった2年間でたくさんの個展が企画され、さまざまなコンクールで受賞した実績に繋がっているのだろう。


 画廊の奥の事務室を兼ねた小さな空間に、村上の小品が50点も展示されている。それらは1点8,000円〜30,000円の価格がついている。
 会場を訪れて優れた才能の誕生をぜひ確認してほしい。
     ・
村上 早(さき)展
2017年11月27日(月)―12月2日(土)
11:30−19:00(最終日17:00まで)
     ・
コバヤシ画廊
東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1
電話03-3561-0515
http://www.gallerykobayashi.jp/