高橋龍太郎『現代美術コレクター』(講談社現代新書)を読む。著者は現代美術の高橋コレクションで有名な精神科医。
高橋は日本の現代美術を「ネオテニー」と定義している。ネオテニーとは幼形を保ったまま成熟してしまう現象をいい、それを日本の現代美術作家にあてはめている。しかし本当にネオテニーと言ったらカイカイキキグループのタカノ綾とかMR.(ミスター)などだろう。他の現代美術作家まで敷衍するのは当たらない。
本書では全体の1/3弱を割いて、高橋コレクションの16人の作家たちを紹介している。高橋は、「ここに選択されている作家たちは、たまたまここにいるに過ぎない」。「くれぐれもこのリストを基準と思わないでいただきたい」と言っている。そうは言っても、やはり人は大きな基準と考えるだろう。その16人を見てみる。草間彌生、森山大道、会田誠、西尾康之、アラーキー、山口晃、村上隆、加藤泉、奈良美智あたりは順当だろう。必ずしも私が好きではない作家も含まれてはいるが。それ以外の作家たちについてはノーコメントとする。
問題なのは、以上見るように具象系の作家たちに偏っていることだ。ある意味、高橋は分かりやすいポピュラーな作家しか理解していないように思える。また現代美術と言いながら、ここ20、30年の作家しか見ていないような印象がある。せめて野見山暁治、山口長男、村井正誠、吉田哲也あたりは入れてほしい。いやまだまだ加えるべき作家はいるだろう。高橋の選択の傾向があまりに特殊な方向に偏っているきらいがあるのだ。
作品の購入については、さすがトップレベルのコレクター、一応説得力がある。
絶対に損をしないためにはどうしたらいいか。(……)ひとつだけ方法がある。/国際価格で500万円くらいを超えてきた作品だけをそろえていくという方法である。(……)もしお金を大切にしたいなら、1作品500万円。より安全性を求めるなら1,000万円以上は必要だ。
いや、そうかもしれないが普通人にそれは無理でしょう。奈良美智を8万円で買って10年後に2,000万円になったコレクターもいるし、草間はここ10年間で100倍になったそうだ。駒井哲郎だって死後10年くらいで20倍になっている。まあ、それらは特殊な例にすぎないが。
しかし勉強になった本だった。読んで無駄にはならないだろう。
- 作者: 高橋龍太郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/10/19
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (3件) を見る