『作家の履歴書』(角川文庫)を読む。副題が「21人の人気作家が語るプロになるための方法」で、この副題は多少羊頭狗肉のきらいがある。阿川佐和子から夢枕獏まで50音順に21人の作家が並んでいる。最初のページに大きく名前だけが置かれており、次のページに本文中から拾われたその作家の言葉が真ん中に置かれている。例えば、角田光代では、
作家の収入では
生計を立てられていないのに、
作家になった
これが私が望んでいたことだと
実感しました。
と、ある。
つまりページ稼ぎなのだろう。名前と「作家の言葉」で2ページを取っている。21人だから全体で42ページがこれに費やされる。総ページ222ページしかないから編集者が苦労したところなのだろう。
3ページ目に簡単な略歴。それから各自5ページずつ宛てて、「志望動機」「転機」「自分を作家にした経験」が語られる。荻原浩や北方謙三など何人かでその小見出しが違っているが、3項目を立てて構成しているのはすべて同じ。どうやらこの部分はインタビューらしい。
その後、見開き2ページを使って、これはおそらくアンケート結果がまとめられている。「最も影響を受けた作家・作品」「執筆のペース」「執筆中に欠かせないもの」「趣味・特技」「作家としての短所・長所」「推敲の仕方」「交友関係のエピソード」「読者について考えるところ」「収入の管理」「本人希望爛(編集者への要望)」となっている。
石田衣良は交友関係はあまりないと言っている。江國香織の趣味は長風呂で、実家では風呂で寝て起きて7時間ぐらい入っていた。大沢在昌が一番飲んでいたときは年間2,000万円くらい使っていた。執筆のペースで北方謙三は月に400枚が限界だと言う。椎名誠が影響を受けた作家は宮沢賢治で「どんぐりと山猫」は暗唱できるくらい読んだ。高野和明は執筆のペースで、『ジェノサイド』を書いたときは1年4カ月で1,200枚書いたという。1年に340日働きました。森村誠一が一番売れたのが『人間の証明』のころで当時の年収は6億円くらいありましたと言い、いまは1億円ぐらいとのこと。
印象的なエピソードは、白石一文が本を書いてもなかなか売れないので、勤めている文藝春秋の編集者に戻ろうと思ったとき、光文社の編集者から戻って何をやるんですかと問われた。家族に仕送りもあるから会社を辞めるわけにはいかないと答えると、いくらいるんですかと返されて、1千万円あれば辞められると言うと、わかりました、明日振り込みますと言われた。それで白石は辞表を出した。幸い1千万円は借りずに済んだというが。太っ腹の編集者もいるんだ。
読み始めたとき、なんて手抜きの本造りかと半ばあきれながら読み進めたが、やはり21人の証言を集めているから「量から質への転換」が起きていて、読み終わったときはそこそこ満足したのだった。