『現代アートの本当の学び方』を読む

 『現代アートの本当の学び方』(フィルムアート社)を読む。現代アートを学びたい若者のための指南書といったところ。会田誠日比野克彦の対談や、なぜデッサンは必要か? とか、アートは美大で学べるのか? とか、アートとデザインは接近してきているとか、先人たち(東山魁夷クリスチャン・ラッセン池田満寿夫ら)はどう学んだかとか、さらに現代アートに関する13の質問や現代アートを学ぶ人に贈る35冊の本なんていうコーナーまである。
 そんな若者ではない私には会田誠日比野克彦の対談が一番面白かった。日本では美大受験に合格するためにはデッサン力が重要視される。会田はデッサン力がなくても世界的に成功しているアーティストが海外にはたくさんいると言う。

会田  (……)例えば「美術手帖」をちょっと立ち読みするだけでも、デッサンの技術を全くなくても世界的に成功しているアーティストたちが、特に海外をみればたくさんいることがわかる。

 デッサンの技術がない一流画家といえば、たちどころにジャクソン・ポロック、バーネット・ニューマン、フランク・ステラ、ドナルド・ジャッドなどの名前が浮かぶ。フランシス・ベーコンも仲間に入れていいのではないか。日本では山口長男が筆頭だし、丸木スマを数えてもいいかもしれない。
 さらに会田は、日本の美術の傾向についても鋭い指摘をしている。

会田  事実として、国際的な現代美術の世界では、70年代あたりから、現代美術というのは、何か社会的なメッセージがあったり、新しい社会モデルを提案したりするようなモノだという考え方が強く広まっていますね。それに対して日本は、この現代においても、まずは一般的なウォッチャーが、美術を趣味的な、花鳥風月的な、美しくて心が安まるものだと期待しているところもある。また、つくり手の卵である若手にも美大生にもそういう部分がある。最近の美大に女子学生が多いこともあって、日本には、趣味的な、お花畑みたいな作品が多いんですね。
これは国際的な基準からはかけ離れているだろうなと思います。場合によっては珍しがられる可能性もあるんですけどね。日本の工芸的完成度みたいなものは、確かに日本の強みであり、日本の武器でもありますから。
でも、現状としては社会批判的な、硬派な批判精神みたいなものが、日本はダントツで欠けているといっていいんじゃないですかね。だからなるべく学生さんや若いアーティストは、その状態をわかったほうがいいと思うんです。わかった上で、趣味的な、工芸的完成度に邁進するならともかく。

 むかし建畠晢も講演会で、日本のインスタレーションはお花畑です、と言っていたことを思い出した。趣味的なという形容に相応しいのは内藤礼もそのひとりだろう。
 さて、会田は先の発言に続けて次のように言っている。

僕は、若いときにその現状にはっきり気づいて、重たい腰を上げて、社会的なものをやるかって決めて、『戦争画RETURNS』シリーズという欧米流ポリティカルアートに対応した作品をつくりました。

 そうだったのか。それで、あの『戦争画RETURNS』シリーズが、会田の仕事の中で少々唐突な印象があるのはそのせいだったのか。会田のなかから必然的に出てきたものではなかった。それはキーファーとの大きな違いだ。
 奥付に小さく記された編者が、川崎昌平、今野綾花、津田広志の3人。著者は会田と日比野のほかに、苅宿俊文、谷口幹也、成相肇、大野左紀子、荒木慎也、暮沢剛巳、土屋誠一、村田真福住廉、山木朝彦、三脇康生、筒井宏樹ら。何だか雑誌のような作りだ。


現代アートの本当の学び方 (Next Creator Book)

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