オコギという山菜

 朝日新聞の「ひととき」欄に「あの山菜をもう一度」という投書が載っていた(5月5日)。投稿者は調布市の岡村三華子38歳。

 5月が来るたびに、切ない気持ちになることが、ひとつある。
 ゴールデンウィークは、たいてい茨城県日立市の実家に帰る。(中略)
 両親の振る舞ってくれる手料理はうれしく、カツオのたたきや、山菜の天ぷらなど、季節の品をふんだんに盛り込んだ料理を味わいながら、ビールを飲み、楽しい時間を過ごす。
 なかでも、地元で採れたコシアブラの天ぷらは、ほろ苦い中にうまみがあり地元ならではの春の味として大好物だった。
 震災が起きた2011年の11月に結婚し、夫も一緒に茨城に帰省するようになったが、コシアブラの天ぷらが食卓にのることはない。
 「とてもおいしかったんだよ」と食べたことがない夫に言いながら、いつかまたあの味を、家族そろって食べたいと、切に願う。

 コシアブラって、あれかなと辞書を引く。『広辞苑』から、

ウコギ科ウコギ属の落葉高木。山地に自生する。高さ約10メートル。葉は5個の小葉から成る掌状複葉で、長い葉柄がある。夏、緑白色で小形の五弁花を球状の花序に開き、黒色の円い実を結ぶ。(中略)若芽は食用。(後略)

 やはりウコギの仲間だったんだ。植物図鑑を見る。コシアブラの属名はAcanthopanaxで、これは想像していたヤマウコギ(=オニウコギ)と同属だ。きわめて近い仲間だといえる。
 私の田舎(長野県飯田市近郊)では春の山菜の一種としてオコギという灌木の若芽を食べる。ふつうおひたしにすることが多い。香りが強くちょっとキシキシとした歯触りがする。少し苦みがあるが慣れれば極めて美味なのだ。
 オコギとは何だろうと、むかし植物学者に標本をみてもらった。これはヤマウコギだよと浅野貞夫先生が言われた。おそらくウコギが訛(なま)ってオコギになったのだろう。
 東京の八百屋では見たことがない。北陸出身の飲み屋のママが、うちの方でも食べるよと言っていた。本で見たら福島県でも食用にするとあった。枝に棘が生えるので家の周囲に植えて垣根にするとあった。それは私の田舎でも同じだ。春に新芽を摘みおひたしにした。
 懐かしくてもう20年ほど前に田舎から送ってもらったことがあったが、鮮度が落ちたオコギはおいしくなかった。久しぶりに今年宅急便で送ってもらったオコギは鮮度も落ちていなくて、おひたしにしたが美味しかった。写真はその際に撮ったもの。


・ヤマウコギの画像(「広島の植物ノート」より)
http://forests.world.coocan.jp/flora/arali-2.html