昭和天皇とヘルムート・ニューマンには本来何の関係もない。2年ほど前になるだろうか。日本橋の画廊に杉本博司が白黒で撮影した昭和天皇の大きな肖像写真が展示されていた。8×10(エイトバイテン=20cm×25cm)と呼ばれる大型カメラで撮られた写真らしく、実物大より遙かに大きく伸ばされていて、毛穴まではっきり写っていた。
いつ撮った写真だろうとキャプションを見ると、平成の年号が付いていた。えっと思ってギャラリーのスタッフに訊くと、蝋人形を撮っているのですとの答えだった。そう教えられて写真を見たが、蝋人形の精密さにあらためて感心した。平成でなく昭和の年号が付けられていたらそのまま何の不思議も感じなかっただろう。
もう一つ驚いたことがあった。杉本博司の写真の真ん前に、やはり大きなヘルムート・ニュートンの白黒写真が展示されていた。正面を向いたヌードの若い女性がピストルを構えている有名な写真だ。彼女の銃口はピタリと杉本博司の写真を狙っていた。
ちなみに、このギャラリーは今はもうない。