圓井義典『「現代写真」の系譜』(光文社新書)を読む。今まであった写真史と全く異なる優れた写真史が現れた。取り上げられた写真家は、土門拳、植田正治、東松照明、荒木経惟、須田一政、杉本博司、マルセル・デュシャン、佐藤時啓、森村泰昌、畠山直哉。単に彼らを経時的に取り上げるのではなく、写真の内在的な意味によって変化していることを説得力のある論評で解説している。
1930年代の報道写真からニュー・ドキュメンタリーが派生し、戦後の美術界では二流メディアと位置付けられていた写真が「成り上がり」、絵画や彫刻と肩を並べる表現になったこと等、驚くような結論に達する。
東松照明と森山大道が並べられ、荒木経惟と須田一政が比べられる。驚くのはマルセル・デュシャンと杉本博司の同質性が指摘されたこと。この章は特に極めて興味深い論考が語られている。デュシャンの「レディ・メイド」(既製品)は杉本博司の写真に通じている、と! そして佐藤時啓のペンライトを空間に振ってそれを撮影する手法を、森村泰昌のセザンヌなどに扮する写真とともに、新表現主義と位置付けている。時に森村をキーファーを引用して語っている件など圧巻だ。
最後に、木村伊兵衛賞とキャノンの写真新世紀、リクルート主宰の『ひとつぼ展』の入賞者が比べられて、3つの賞から見えてくる写真の傾向が指摘される。さらにVOCA展の傾向も考察される。
「現代写真」の系譜と題しながらも、現代美術の歴史まで網羅している。教えられることの多い本だったし、優れた評者を知ったことも収穫だった。