赤い口紅の女性は・・・

 まだ21、2歳だった頃、「おまえのセクスはまだ聴覚を持たぬか」という1行を含んだ詩を書いた。それを読んだ親しかった友人のKが、「××よ、早く女を抱け」と言った。そう言われていささか動揺した。Kはすでに彼女と同棲していたが、私はまだ女性経験がなかった。どうしてそれが分かったのだろう。
 やはりその頃、経験豊富に思われるKが、真っ赤な口紅を付けている女は欲求不満だと教えてくれた。真っ赤な口紅に緑の洋服を着ていたら間違いない。そんなことが分かるのかと未経験の私は本当に驚いた。
 親しかった友人と書いたが、彼はもう30年近く前に死んでしまった。そんな過激な情報を教わってから、もう45年ほど経った。そのことが事実なのか、単なるジョークだったのか結局未だ分からないままでいる。
 突然そんな古い話を思い出したのは、最近街のあちこちに、真っ赤な口紅を付けた女の人の顔写真のポスターが貼られているからだ。もうすぐ選挙があるらしい。
 そのポスターから懐かしいKのことを思い出した。


活司命日(2006年10月27日)