2月3日は節分だった。その日は大島かづ子の短歌を思い出す。
追儺の豆外には打たじ戸もたてじ召されし護国の鬼の兄来よ
追儺(ついな)は、角川ソフィア文庫の『俳句歳時記』によれば、
追儺:節分の夜、桃の弓で葦の矢を放って悪魔を追い払う儀式。各神社では追儺の豆撒きが賑やかに行われる。追儺の儺は災いを追い払うという意味をもつ字。
戦死した兵は鬼となって国を守るとされた。戦死した兄を妹が偲んでいる。彼女は年老いたのに兄は若いままだ。その若くして亡くなった兄のことを節分の夜に妹が詠んでいる。護国の鬼になった兄の魂が戻ってくるように「鬼は外」の豆は撒かない。戸も開けたままにしておくと。
私が母と最後にした会話で、お袋、俺が誰か分かる? と呼びかけたのに対し返ってきた返事はマサズミだよ、だった。それは私の知らない戦死した母の兄の名前だった。
大島かづ子をGoogleで検索すると、いくつかの短歌があった。
撃たれしならむごし餓死ならなお切なし還らざるままみのりいくたび
無名戦死者の墓と言うともかけがえなきひととなげきつ征かせしものを
その心に応えざりしを征きしと聞きし遠き夢見ぬ風邪に伏しいて
懲らしめらるる何あるべきや戦火に追われ逃れ馳ゆく子の細き足
朝日歌壇や地方紙に投稿していた歌人のようだった。宇都宮在住だった由。
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