写真集「鬼哭の島」がすばらしい

 江成常夫の写真集「鬼哭の島」(朝日新聞出版)がすばらしい。江成は太平洋戦争の戦跡を訪ねて撮影をしている。その成果を東京都写真美術館ニコンサロンでも発表している。オアフ島ガダルカナル島ラバウル、マダン、ビアク島、トラック島、レイテ島、ルソン島サイパンテニアン、グアム、硫黄島、そして沖縄。
 沖縄の戦跡に限っていたニコンサロンの写真展に比べ、さすがに東京都写真美術館の写真展はすべての地域を網羅していたし、写真のサイズも大きく迫力があった。しかし、本書の大きな特長は実際にその場所で戦争を経験した人たちの証言が掲載されていることだ。すべて老人の19人が語っている。
 写真は雄弁に語ることができる。だが江成が撮影したのは戦後60年以上経った戦跡だし、戦争経験のないわれわれには、これらの写真をどのように読めばよいのか分からないことが多い。19人の証言者たちが悲惨だった経験をはっきりと語ってくれる。
 高価な本だ。私も図書館にリクエストして購入してもらった。図書館では利用者からのリクエストがあれば購入しやすいという。娘が、父さんいい本をリクエストしたねと褒めてくれた。図書館にあれば多くの人に見てもらえるだろう。
 出版社にお願いしたいことは、何年かしてこの本が市場に十分行き渡ったら、安価なダイジェスト版を出してほしい。少なくとも19人の証言は省かないで写真点数を減らし、カラー写真は口絵にまとめて低価格を指向し、多くの読者を得てほしい。
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江成常夫の戦跡の写真展と太田三郎展(2011年8月11日)


鬼哭の島

鬼哭の島