野見山暁治のエッセイ集「異郷の陽だまり」

 野見山暁治の新しいエッセイ集「異郷の陽だまり」(生活の友社)が発行された。90歳の野見山は、本書で最初のエッセイ集「四百字のデッサン」と響き会うように画家たちなど知人のスケッチを載せている。
 木村忠太、脇田和岸田劉生、今西中通、小川国夫、森芳雄、宇佐見英治、佐伯祐三藤田嗣治、麻生三郎、田淵安一、香月泰男、駒井哲郎、風間完などなど。もうこれだけでも読むに価する。
 野見山は短文でその人の本質を描き出す特異な才能を持っているかのようだ。「四百字のデッサン」で描いた椎名其二なんかはその典型だった。わずかなページで描写した椎名の姿はほとんど完璧だと思われた。その後、誰かによって書かれた「パリに死す 評伝・椎名其二」の分厚い単行本を読んでそれが痛切に分かった。
 画家たちに対する短文が多いのは、追悼文を頼まれることが多いからだとあとがきで書いている。90歳の野見山さんはまだまだ元気で、今も九州のアトリエの前の海で毎日泳いでいるという。秋に個展があるのに、まだ描いてくれてないんですよと、みゆき画廊のUさんがこぼしている。
 ブリジストン美術館では「野見山暁治展」が10月28日〜12月25日に予定されている。朝日カルチャーでは11月3日に「野見山暁治90歳のスケッチブック」という講座も予定されている。今年の秋は実りが多く楽しみなことである。
 本書について、ほんのちょっとした不満はカバーの装幀だ。あとがきでは「菊地信義氏の手になる、あえてぼくの絵のステンド・グラスをつかった装幀。意表を突かれました。有難う」と書かれているけれど、とても違和感があった。ファンは野見山暁治の絵が見たいのだ。たとえ、それが表紙であっても。ステンド・グラスなんかじゃなくて。


異郷の陽だまり

異郷の陽だまり